• 標準
  • ENGLISH

1.当事は満室、高利回り物件だったが…

状況

 これは、5年前に投資目的で賃貸アパートを購入したAさんの例です。埼玉県内の駅からバスで15分もかかる場所に、築9年の収益物件を、「節税対策にもなりますよ」という金融機関からの勧めもあり、自己資金2,300万円・借入金6,000万円(15年返済・変動金利2%)の、合計8,300万円で購入しました。

購入当初は満室だったこともあって、賃料収入が年間960万円で、借入をしなかった場合の手取り収入は年間820万円あり、実質の利回りは10%近くもあったので良い物件を購入できたと喜んでいました。

ところが、5年経過するうちに、近隣の大規模工場が閉鎖され分譲マンションとなったために、今まで住んでいた工場の従業員家族が退去しただけでなく、月々の支払い負担の軽い分譲マンションへ引っ越した賃借人も多く、3割の空室が生じてしまいました。
しかも、家賃の値下がりもあって、借入をしなかった場合の手取り収入は4割も低下し、480万円になってしまいました。

つまり、現在の低金利でさえ年間460万円の返済を行うと、実質の手取りはほとんど0に近くなってしまうのです。Aさんは、「金利が上昇したら、その負担に耐えられない。
今のうちに売却して、投資した資金を回収できないものだろうか」と考えるようになりました。

対策

しかし現実は厳しく、売却価格はAさんの希望を大幅に下回り、4,200万円の売却価格が一番高い入札価格でした。これでは、借入残金を返済したら2,000万円しか手元に残らない状況になってしまうのですが、空室は今後も増えるかもしれなく、返済が滞ってしまうのが怖かったために売却せざるを得ませんでした。

ここで、Aさんが物件を購入するときから売却するときまでの利回りを考えてみると、表のようになります。

Aさんがこの収益物件を保有していた5年間に、得られた借入金返済後の手取り収入合計額は1,090万円でした。一方、8,300万円で購入した物件を最終的に4,200万円で売却したわけですから、△4,100万円の売却損が発生しています。この賃料収入と売却損を通算すれば、最終収支は、△3,010万円となってしまいます。
Aさんの失敗は、利回りといってもあくまでも表面的な一時的利回りで判断してしまい、市況の動向を考えていなかったことに原因があったと言えます。

しかしAさんの場合は、売却の決断が早かったため、まだ救われたと言えます。
そのまま持ち続けていた場合には、さらなる賃料の下落や、空室が増えて単年度で赤字に転落する恐れがあったばかりでなく、金利上昇負担による収益悪化の懸念もしなければなりません。
そういう意味から言えば、傷の浅いうちに損切りできて良かったとも言えるのです。
このように、一度購入したら手放すことは無い不動産を購入したつもりでも、不動産投資は長い期間での投資であり、その期間に市況がどのように変化するのか、予測する事は大変難しいのです。
最低限、その地域の不動産市況や潮流を予測することは、大切な条件です。

建物は、築年数を経過するにつれて、確実に減価していくものです。投資目的で不動産を購入する際は、表面的な利回りだけでなく、売却時の価格も考慮した出口戦略も事前に立てておくべきなのです。
購入後であっても、売却時の収支を絶えず想定して、最終利回りを念頭に置くことは重要なポイントなのです。

結果

以上のことから、不動産投資において一般にリスクの小さい物件は安全・確実に収益が期待できますが、その反面利回りは低く、逆に利回りの高くなればなるほど、リスクが高くなることが常識であることを裏付けているのです。