2019.04.01
財産承継健康
いい家族であり続けるために、意思決定力がある間に準備を。

2017年の日本人の平均寿命は女性が87・26歳、男性が81・09歳と、過去最高を更新しました。
寿命が長くなると同時に不安視されるのが「認知症」。高齢者専門の病院である青梅慶友病院理事長の大塚太郎氏と、当社代表 蓮見正純が「認知症への備え」について対談を行いました。

認知症の予防策に決定打なし。発症に備え、準備しておく

蓮見認知症にならないために、有効な予防策はあるのでしょうか。

大塚世の中では「人と積極的に会話する」「好奇心を持つ」などと言われますし、発症後は薬で進行を遅らせる方法もあります。しかし、いずれも一定の効果は認められても、決定打はないのです。80~90歳まで長生きすれば、認知症になるリスクは避けようがありません。「認知症にならないようにするには」と考えるのは、「老いないためには」「死なないためには」と考えるようなものです。だから、認知症を特別なものだと思わずに「いずれなるもの」と捉え、なったときに備えておくことが大切だと思います。自分自身で意思決定・意思表示ができなくなっても、本来の希望どおりに物事が遂行されるようにしたいものですよね。それを整えておけば、老後を憂いなく、穏やかに過ごすことができるでしょう。

蓮見認知症になった時に備えて、あらかじめ意思表示をしておくべきことといえば、治療方針や資産管理、相続などがあると思いますが。

大塚私も講演の際などにご相談を受けることがあります。例えば「資産を病院で預かってもらい、そこから入院費を払うことはできないか」と。現状ではお預かりできませんが、このように、資産をどう管理していくか、迷ったまま行動に移せていない方は多いのではないでしょうか。

蓮見意思決定を先送りするうちに認知症になってしまうと、ご家族の間でもめごとが発生することもあるので早めに対策を取っていただくといいのですが。

大塚認知症になると、意思決定はしづらくなりますが、嬉しい、楽しい、つらいといった感情は残っているのです。だからこそ当院でも、最晩年まで患者様の尊厳が保たれ、質の高い豊かな生活を送っていただくことを信条としています。安心を得るために、資産管理や相続にはどういった対策があるのでしょうか。

蓮見認知症になられた場合は「成年後見制度」を活用します。これは認知症などで本人の意思決定力が低下した場合、後見人に財産管理を任せることができるという、民法で定められた制度です。ただし、「成年後見制度」に対しては少なからず使い勝手の悪さもあるのです。この制度は「被後見人のために財産を保全する」ことが第一とされ、制度の趣旨として財産を増加させることは含まれていないと考えられているのです。このため、どんなに有益であったとしても、「成年後見制度」において有価証券運用等を行うことは基本的にできないと考えられています。 そこで、注目されているのが認知症になる前の対策ですが、「民事信託」です。これは資産管理を、「誰に」「どんな目的で」「いつ(例えば認知症になった時に)」委託するかを決め、万が一自分が認知症になった後も、自分の財産が自分の意志に沿った形で運用・管理できるようにしておく仕組みです。青山財産ネットワークスは、この認知症リスクに備えていただくために、民事信託・任意後見制度の活用・遺言書作成などのコンサルティングサービスをご提供しています。

「第三者」が介在することで冷静な対話、客観的判断が可能に

大塚蓮見さんのような第三者が立ち会うのは、家族のもめごとを防ぐには有効だと思います。患者様のご家族を見ていますと、父母が以前に示した意思に対して、ご兄弟によって解釈が分かれることがあります。ご兄弟それぞれ、親御様への愛情と思いやりを持っているのは事実。しかし、自分の考え方や価値観で父母の言葉を捉えるため、時にはズレが生じてしまいます。話し合いの中で感情的になるのを抑えるためにも、第三者が「レフェリー」として介在するのがいいですね。

蓮見冷静に対話できるようにする以外に、「正しい専門知識をもとに判断する」という意味でも、第三者の専門家を活用していただきたい。知人やメディアから聞きかじった「~らしい」という誤った知識をもとに話が進んでしまうことも多いですから。

大塚判断力があるうちに、客観的視点を持った第三者を交え、意思を明確化して文書に残しておくことが大事だということですね。

蓮見はい、おっしゃる通りです。そして「なぜそうするか」という理由も添えておかれると良いです。納得が得られやすいので、ご家族のトラブルも避けられます。

大塚判断力があるうちの話し合いが「想いを伝え合う場」となればいいですね。親から子への感謝、子から親への感謝の意を表明する機会になれば。そうすると、余生も亡くなった後も、いい親子関係が続くと思います。

考え始めるタイミングは「70歳」問題を先送りにしない

蓮見医療のプロの観点では、将来の資産管理・相続の準備はいつ頃から始めるべきだと思われますか。

大塚70歳くらいが適切なタイミングなのではないでしょうか。75歳を超えると、考えたり、物事を決めたりする気力が衰えてくる方が多いので、その前に。 ケアや延命治療に関しても、資産管理や相続に関しても、「70歳時点で考える」を全国民の義務にしてもいいのでは、と思います(笑)。後で考えが変われば随時更新していけばいいのですから。

蓮見ご資産の棚卸しから始めていただくことになります。多少面倒な作業ではありますが、一度行っておけば、その後は数年に一度のペースで見直しするのはそれほど苦にならないものです。その上で、これからの資産管理プランや相続プランを立案され、実行していただくと安心だと思います。ところで、子どもの立場からしますと、親の変化をなるべく早く察知したいですよね。認知症が始まるときにはどんなサインが表れるのでしょうか。

大塚同じ用件で何度も電話してくる、約束をすっぽかし、それに対して悪びれる様子がない――つまり約束したこと自体を忘れている、といったことがあれば発症の可能性があります。

蓮見そんなとき、子どもはどのように接するのが望ましいのでしょうか。

大塚ご本人も不安に思っていて、「自分は認知症かもしれない」といったことを口にされることがあります。このとき、子どもは認めたくない気持ちもあり、「そんなことないよ」「まだまだ大丈夫だよ」などと否定したり慰めたりしがちですが、それは好ましくありません。ご本人が一番認めたくないのに、勇気を出して言ったのですから「心配なら一度検査してみようか」と勧めてあげていただきたいと思います。

蓮見「問題を先送りにしない」。それを心がけたほうが良いということですね。ありがとうございました。

青梅慶友病院は「自分の親を安心して預けられる施設」を理念に1980年に開設された療養型病院。旅立ちの日まで心豊かに過ごせる「終の棲家」を目指し、潤いある生活環境と看護、介護、医療の一体的提供に取り組んでいる。
患者の平均年齢は89.4歳。認知症患者も多い。

大塚太郎氏/青梅慶友病院理事長。慶應義塾大学総合政策学部卒業後、順天堂大学医学部入学。 複数の病院、医療センター勤務を経て、2007年より青梅慶友病院に勤務。2010年より現職

蓮見正純/青山財産ネットワークス代表取締役社長。公認会計士。税理士。青山監査法人等を経て、1996年にプロジェストを設立。2008年より現:青山財産ネットワークスの代表取締役社長に就任

※役職名、内容等は取材時のものです。