2021.01.29
財産承継事業承継
スペシャル対談【後編】
蓮見正純×米田隆
ファミリーオフィスサービス 本年1月スタート

【後編】一族の理念が正しく承継・更新されていくために―
「ファミリーガバナンス」整備の重要性

青山財産ネットワークスは、新会社・青山ファミリーオフィスサービスを設立し、2021年1月よりファミリーオフィスサービスを開始しました。 これは、ファミリービジネス(=同族企業)が永続的に発展していくための仕組みを整備・運用するサービスです。これまでは企業オーナーの皆様に対し、「財産」面を中心に支援してまいりましたが、「非財産」の領域も含め、より包括的にお手伝いします。
この新規事業に際し、ファミリービジネスへの非財産分野も含めたコンサルティングにおいて30年の実績を持ち、早稲田大学商学学術院ビジネス・ファイナンス研究センター上級研究員(研究院教授)も務める米田隆氏をお迎えしました。
そこで、代表の蓮見と米田氏が対談。前編では、なぜ、私たちがファミリーオフィスサービスに取り組むのか、どんな問題解決を目指すのかについて語り合いました。
後編となる今回は、「ファミリーガバナンス」の整備・運用の重要性をテーマにお話しします。(前編はこちら

「社史」などの開示資料では、本当に重要な歴史は伝わらない


蓮見 正純 Masazumi Hasumi

蓮見ファミリーオフィスサービスの構想について米田先生とお話ししていたときに深く刺さったのが、「ファミリーガバナンス(一族内統治)」を整備することの重要性です。
創業者から2代目、3代目へと継承されていくとき、「創業者の理念を大切にしよう」と言ってはいても、大切にするための仕組みがないせいで正しく伝わっていない……そう感じることが最近増えたものですから。特に創業者と3代目となれば50歳くらいは離れていて、孫は祖父の現役時代の姿を見ておらず、その精神を肌で感じとっていませんからね。

米田確かに、2代目はまだ創業の苦しさを目の当たりにしている。親が受話器越しに取引先に頭を下げている姿を見ていますからね。いわゆる「銀のスプーンをくわえて生まれてきた」3代目以降には、創業時の苦労は実感できない。

蓮見創業時の理念であったり、さらに具体的な商売の姿勢であったり、そういうものを風化させずに繋いでいこうとするなら、繋ぐ仕組みを一族が持っていなければなりません。そこに気付いて「社史」の編纂に取り組む企業も多いわけですが、それで正しく伝わるかといえば疑問が浮かびます。

米田社史に書かれているのは経験が消化された上での言葉であり、そのプロセスで悔し涙を流していたり怒りで身体を震わせたりしている姿は伝わりませんよね。

蓮見それに、開示資料の記述は綺麗に整えられていますし、「公にできないこと」は省かれていますから。しかし、「実はこうだったんだ」という裏側のストーリーにこそ、経営を受け継ぐ人にとって大きな指針が含まれていると思います。

受け継ぐべきもの、変えていくべきものをブレンドする


米田 隆 Takashi Yoneda

米田ファミリービジネスにおいては、創業一族が守るべきルールや行動規範を「家族憲章」として制定することもよくあります。しかし、文字で残すだけでなく、定期的に一族総会と言われる一族の集会を開くなどして、直接口頭で当時の出来事や想いを伝えることが重要。そうして綿々と刷り込んでいく過程があってこそ、初めて家族憲章という活きたドキュメントになるのです。
そして、家族憲章は時代の変化とともに書き換えていくべきものとされています。引退した経営者も、死ぬまで家長としての役割を担いながら、若い孫世代と一緒に家族憲章を更新していく――それを一族のコミュニケーションイベントとしてデザインし、ファシリテートすることが、我々ファミリービジネスコンサルタントの重要な役割の一つだと捉えています。

蓮見まさにそれが、ファミリーガバナンスの仕組みを創ることに繋がるのでしょうか。

米田仕組みと言うと、堅苦しい規律……というイメージを抱きがちです。しかし、『自由と規律』(池田潔著)というロングセラーにも書かれていますが、実は規律があることで人は自由になれるものなのです。ガバナンスがあってこそ、一族の本来のあり方が活かされる。精神的にも開放される。そこが野放図であると、動物的な本能に支配されてしまいがちですが、それは精神性が高い人間にとって本来の自由な姿とは言えません。
ですから、集団として引き継ぐべきものが何であるかを皆で考えた上で、受け継いだものと今の世代で求められてるものをブレンディングしていくことが大切なんです。先代から一方的に押し付けられたものではなく、自分たち世代が主体的に作ったものだからこそ、自分たちを自由にしてくれるわけです。

蓮見ファミリーガバナンスとは、後継世代を縛り付けるものではない、ということですね。

米田似た言葉で「家訓」がありますが、これは非常に内容として抽象的であり、頭首の主観によって解釈が曲げられてしまう可能性があるものだと思います。それを防ぐために、一族会議・一族総会で話し合い、透明性と合理性を持って書き換えられていくべきでしょう。より客観的・具体的な記述をすることで、皆がそれに基づいて将来に向けて行動が計画できるようにする。ファミリービジネス永続化の「支援ツール」としてのファミリーガバナンスには、そんなあり方が求められているのではないでしょうか。

アイデンティティがブレない同族企業は社会貢献を継続できる

蓮見「同族企業」とは、「企業を私物化している」といったネガティブな視線を向けられることもあるかと思います。実際にそうなってしまうリスクを避けるためにも、ガバナンスは必要だと思います。

米田同族企業のメンバーが不祥事を起こしてしまうのは、やはり自分たち一族が社会で果たしてきた役割、提供してきた価値というものを教えられていないからでしょう。だからファミリーガバナンスが事業のガバナンスには欠かせないし、教育が大切です。ファミリーガバナンスを理解したメンバーが経営に参加すれば、自分たちが社会から求められていることを踏まえ、一族事業を通じ一族の価値を実現していける。

蓮見非同族企業の場合、経営者が交代すると、その人ならではのカラーを出していこうとする向きがあります。その点において、同族企業は軸がブレにくい。これはすごく大きな強みだと、私は思います。

米田事業そのものが一族のアイデンティティとして確立されたものですから、一族事業の生存能力も高まります。
エルメスの6代目が、印象的な言葉を残しています。

「私たちは、この財産を親から相続したわけではない。未来の世代の一族から、今、預かっているに過ぎない」

こういう考え方をすると、資産に対して謙虚になれる。謙虚さを持ったとき、本来支援していただきたい方からの支援を得られますし、多くの人を巻き込む力を発揮していけるはずです。

蓮見そのような理想的な形でファミリービジネスが永続化し、ひいては地域の発展にも貢献する存在であり続けられるよう、お手伝いしていきたいですね。


※役職名、内容等は取材時のものです。

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