2022.02.28
税制・法令
不動産賃貸業における個人と法人の税制の比較(インカムゲイン)

「所得税と法人税」

不動産賃貸業を個人で営む場合所得税法人で営む場合法人税が課税されます。所得税と法人税では大きな違いがあります。所得税と法人税の違いを理解することにより、不動産賃貸業をどちらで行えばよいかの意思決定に役立ちます。

「不動産賃貸業における収入」

不動産賃貸業は、各賃貸物件の取得・運営・売却を行う事業です。各賃貸物件の運営により地代収入や家賃収入などのインカムゲインを得られ、所得税や法人税が課税されます。また、各物件の売却により不動産売却収入などのキャピタルゲインを得られ、所得税や法人税が課税されます。
今回はこのうちインカムゲインについて個人と法人の税制を比較します。

※なお、税制の原則的、概括的な取り扱いを記述しており、例外的な取り扱いや取り扱いの詳細については記述しておりません。

「所得税と法人税の違い」

所得税と法人税では、主に下記のような違いがあります。

 
項目   個人事業主(所得税)  法人(法人税)
 税率 実効税率15~55%(累進税率)
※住民税を含み、復興特別所得税・事業税を除く
実効税率29.74%(比例税率)
 事業主への給料 事業者自身への支払いは、給与として必要経費に算入できない。 役員報酬として適正額まで損金算入できる。

事業主は、役員報酬について、給与所得として給与所得控除後の金額に所得税が課税される。
 家族への給料
(事業的規模の場合)
生計一家族への青色事業専従者給与を適正額まで必要経費に算入できる。

生計一家族は青色事業専従者給与について給与所得として給与所得控除後の金額に課税される。
役員報酬や従業員給与として適正額まで損金算入できる。

家族は、役員報酬や従業員給与について、給与所得として給与所得控除後の金額に所得税が課税される。
 事業主への退職金 事業者自身への支払いは、退職金として必要経費に算入できない。
役員退職金として適正額まで損金算入できる。

事業主は、役員退職金について、退職所得として退職所得控除後の金額の1/2について退職所得として所得税が課税される(短期在職者の場合には、1/2課税とならない)。
 家族への退職金
生計一家族への退職金は、必要経費に算入できない 役員退職金や従業員退職金として適正額まで損金算入できる。

家族は、役員退職金や従業員退職金を退職所得控除後の金額の1/2について退職所得として所得税が課税される(短期在職者の場合には、1/2課税とならないケースあり)。
 家族への地代 生計一家族への地代は、必要経費に算入できない。 地代は損金算入できる。

地代を受け取った家族は、不動産所得として所得税が課税される。
 青色申告特別控除 青色申告の場合、10万円または55万円、65万円の特別控除が適用できる。
白色申告の場合は、青色申告特別控除の適用はない。
所得税の青色申告特別控除に相当する規定はない。
 自宅に要する経費 事業主自身が有する自宅の固定資産税や減価償却費は必要経費にならない。 法人が有する場合、社宅として固定資産税や減価償却費は損金算入できる。

法人は、事業主から所定の家賃を収受しない場合は、事業主に対する役員報酬として、事業主に給与所得として所得税が課税される。
 生命保険料 事業主が契約した場合、生命保険料控除として最高12万円まで所得控除できる。 法人が契約した場合、法人が負担した保険料については、保険契約の内容に応じ、所定の金額を損金に算入することができる。
 減価償却の計上 強制償却
任意償却
 交際費 事業遂行上必要なものは、全額必要経費に算入できる。 期末資本金の額等が1億円以下の法人の場合(※)、飲食費の50%または800万円まで損金算入できる。
(※一定の場合を除く)
 寄附金 必要経費に算入できない。
寄附先によっては、所得控除又は税額控除ができる。
一定の限度額まで損金算入できる。
 不動産所得の損益の通算 (原則)
不動産所得の赤字は、損益通算(他の黒字の所得から差し引くことができる)できる。

(例外)
①不動産所得の赤字のうち、土地等を取得するために要した負債利子に相当する金額はないものとみなされ、損益通算できない。
②任意組合等や信託による不動産所得の赤字はないものとみなされ、損益通算ができない。
③国外中古建物による不動産所得の赤字のうち、減価償却費(※)からなる部分はないものとみなされ、損益通算ができない(国外中古建物同士での内部通算はできる)。
(※耐用年数を簡便法等により算定した場合)
(原則)
損益通算ができる。


(例外)
任意組合等や信託から生じた赤字のうち、簿価純資産額を超える金額は、損金算入されない。
 不動産所得の損失の繰越  損益通算後の不動産所得の損失は、3年間繰越できる(青色申告の場合)。
 10年間繰越できる(青色申告の場合)。

 

「まとめ」

経費については、個人に比べ法人の方が広く認められます。また、損益通算や損失の繰越も法人の方が広く認められます。
一方、税率は個人は超過累進税率なのに対し、法人は比例税率となっており、所得水準が低い場合は個人の方が税負担が少なくなります。
年間所得が1000万円以下で、毎年安定した所得が見込まれる事業であれば、概ね個人が有利です。一方、年間所得が1000万円超の場合や、毎年の所得の変動幅が大きいと予想される事業の場合は、法人が有利な場合もあります。

※詳細については、税理士・税理士法人等の専門家や所轄の税務署等にお問い合わせ下さい。

 

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