人生には思いもよらないことが起きるもの。そんなとき、限られた時間内に結論を出そうと、闇雲に行動したり、勘に基づいて判断したりすると失敗しかねません。それは、資産を守る場合も同じこと。普段から自らの資産の状況を把握することが大切です。
今回は、道路用地の収用という局面において、資産を毀損することなく、むしろ相続による財産の減少危機から資産を守る機会にした事例を紹介します。

お住まい | 首都圏 |
資産額 (相続税評価額) | 6億円 月極駐車場、アパート1棟、底地2件、自宅を所有 |
課題 | ・収用によって資産や相続対策にどのような影響が生じるのか心配 ・土地収用によって消滅する収入をどう確保するか |
提案 結果 | ・将来性のある都心の一等地に立地するビルを代替取得 ・代替特例を受けて相続税を無事に納付し、キャッシュフロー改善 |
ご相談時の状況

以前から、資産管理や相続対策のご相談をいただいていた80代のA様。首都圏に広い土地を所有していますが、月極駐車場、アパートなどが、道路拡幅事業の敷地にかかることになったと相談がありました。
道路用地の収用というと一方的に不動産を取り上げられるイメージがあるかもしれませんが、実際には事業者と地主や賃借人などの関係者が話し合い、折り合った条件に従って補償金(土地については売買代金ですが、ここでは補償金とします)を受け取ります。
とはいえ、補償金の受け取りには多額の譲渡益が発生し、所得税が課せられると、せっかく公共事業に協力しているのに手残りが大きく減ります。譲渡益から最大5000万円を控除できる特別控除制度と、代替となる不動産を購入した場合に売却までの所得税の支払いを繰り延べる代替特例のどちらか一方を選択できますが、どちらを選ぶかも慎重な判断が求められます。
また、A様とともに、心配をされていたのは50代の長女B様です。
長女B様のお悩み

収用が決まると土地代と補償金が支払われ、この時点で不動産が数億円という現金に変わりますが、万が一その状況でオーナーが亡くなると、大きな相続税の負担がかかる恐れがあり、これまでの安定収益も失うことになります。
当社の対応とその結果
当社では、A様の財産の現状と将来予測について以前から分析を任されていましたが、今回の収用にあたってA様に最適なご選択をいただくため、顧問税理士の先生のご協力のもと、あらためて精緻な分析を行いました。収用前の相続税の課税資産総額は約6億円で、相続税の試算額は1億9700万円です。さらに当社では、5つの視点により収用前後の資産の将来変化の想定を行いました。
各物件の収支などを整理すると、収用対象となる不動産の相続税評価額は約2億5000万円、収用による補償金の合計は約3億8000万円となることに。それまで不動産であった財産の一部が多額の現金に変わることで、課税資産総額は7億3000万円に増加します。受け取った補償金を、現預金などの金融資産のまま保有している状態で相続が発生すると、相続税額は2億6000万円程となることがわかりました。

ここで当社では、対策の検討に入りました。まず、収用による収入が3億8000万円にのぼることから、5000万円の特別控除を適用したとしても多額の所得税がかかるため、代替となる不動産を購入して代替特例を受ける方が有利と考えました。
A様の場合、かねてより郊外の狭いエリアに集中している不動産の一部をより将来性のある財産に組み替えることが、リスク分散の面でも収益の面でも有利であることはわかっていました。しかし、先祖代々守ってきた土地を残すことを優先するお考えでした。
当社では、今回の収用を資産価値増加のチャンスととらえ、補償金を使った収益物件の取得を改めてご提案。奥様を亡くされて気力が低下気味だったA様は大がかりな資産の組替えには消極的で、長女のB様は海外での資産運用に将来性を感じて興味を示していました。そのため、当社ではこれらのプランを比較検討できるシミュレーションをご用意しました。
補償金を不動産に組み替えた場合、不動産収支は代替取得した収益物件からの収支が加わって年間800万円から2000万円に増加しました。収益性で比較すると、2.3%(収支1400万円・課税資産総額6億円)から5.2%(収支2000万円・課税資産総額3億8000万円)と2倍以上に。また、相続税は約1億1000万円となりました。また、B様が興味を持っていた海外での資産運用では、相続税の納税が難しくなることがわかりました。このシミュレーション結果を見て、お二人は当社の提案を理解され、採用されました。
その後、数十件にのぼる物件見学会を経て、最終的に都心の一等地に立地するビルを代替取得。相続税の納税プランも見通しがつき、キャッシュフローが改善するという夢のような結果になりました。

解決のポイント
成功の大きなポイントは、収用の話が出る以前から、当社がA様の資産や不動産収支、相続が発生した場合の相続税の負担などの現状分析をしていた点です。もし、現状分析がされていない状態で収用が実行され、さらに相続が発生したら、相続税納付期限までの10カ月という短い期間で、納税のために自宅やアパートなどそのほかの資産を手放す必要に迫られていました。現状分析をしておいたことで、たまたま起きた収用という事態を好機として、「全体最適」となる相続対策をすることが可能になったのです。
「あの地主が首をタテに振らないから街並みが整わない」「あそこの地主がウンと言わないから道が狭くて不便」といった噂話を耳にしたことはないでしょうか?
A様の事例でも、近所の方から「地域の名士であるA様がどう対応するのか、収用の話が聞こえるようになった頃から気にかけていた」という声がありました。A様が早々と同意したことで道路拡張に向けた動きが活発になり、道路が広がった今では「あの道路拡張のおかげで住みやすくなった」というのが地域の方の感想です。
土地持ち資産家は、地域の方から注目される存在です。その土地の名士らしく、地域の将来まで見据えた資産活用を行うことも重要と言えるでしょう。
- 相澤 光Aizawa Hikaru
- コンサルティング事業本部 コンサルティングサービス室 室長 兼 第四事業部 ダイレクトグループ グループ長
不動産や法人を活用した財産防衛策の立案・実行に従事し、財産と想いを次世代に承継するための支援を提供。最適な選択肢を見つけられるよう、中立的な立場で家族全体の意向調整もサポートすることを信条とする。
当社の30年にわたるナレッジを集約した書籍を発行し、セミナー登壇実績も多数。
趣味:学び(税理士資格の勉強中)、ギター、サウナ
- 専門分野
- 土地持ち資産家、金融資産家向けコンサルティング
- 資格
- 1級ファイナンシャル・プランニング技能士、公認不動産コンサルティングマスター、宅地建物取引士
- 著書
- 「5つの視点」で資産と想いを遺す~人生100年時代の相続対策
