顧客情報:食品の製造・販売業、お住まい:首都圏、売上:約6億円、資産:約6億円(うち純資産:4億円)、提供サービス:組織再編
業績好調で、数期にわたり増収増益の企業。株価も上昇傾向にあり、純資産の比率も高いため、将来の相続では多額の納税資金が必要となる可能性があります。しかし、目先の財産だけを考えた対策では、永続的な発展は望めません。
選択しがちな「株価が上がり切る前に子どもに株を譲渡する」という方法は、一見、ベストにも思えます。しかし、そこにはリスクもはらんでいることをご存知でしょうか。
課題 | 株価が上昇傾向にあるため、相続の際に納税資金を確保できるのか 後継者が未定のため、将来の事業承継が心配 金融機関から融資を受けて子に株式を譲渡することを検討 |
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提案 | 全体最適の視点での組織再編 |
「目先の財産」だけを考えることのリスク
「最近、株価が上がってきたので、早急な株式譲渡を検討しています」
そうご相談に来られたのは、食品の製造会社A社と販売会社B社を営むC様です。現在C様が100%保有している株を、金融機関からの融資を使って一人娘のD様に譲渡することを考えていらっしゃいました。
確かに、目先の財産を守るということなら、娘のD様を100%の株主とした資産管理会社を設立し、融資された資金でC様の株をすべて買い取るという方法もあるでしょう。しかし、それだけでは将来的な不安は拭えません。
C様はまだ50代。経営権を譲る予定はなく、あと20年ほどは会社を運営していきたいと考えていらっしゃいます。加えて、D様は学生であり、将来会社を継ぐかどうかは今の時点では分からないとおっしゃっています。
今後、会社を継がないということも考えられますし、将来ご結婚されて、万が一、D様に何かあった場合、経営に関与しない配偶者に株が移るなど、株式が分散するリスクもあります。そもそも、未来永劫、利益が上がり続ける保証はなく、借入金を返済していけるのかといった懸念もあるでしょう。
「とりあえず子どもに」という選択はやめる
このような懸念を残しながら、急いで株を譲渡してしまったら、所有と経営が分離し、安定した会社の経営ができなくなってしまいます。経営に関係のない人間が株を100%持つことにはリスクが伴うからです。
円滑な事業承継を目指すなら、経営者に株を集中させること。そして同時に後継者をじっくり育成していくことです。
C様も「将来、娘の配偶者に株式が移ってしまう可能性は考えたことがなかった」と不意を突かれた反応をされていました。
「とりあえず子どもに」という選択は、一旦取りやめて、経営者であるC様が株を支配できる環境を保ちながら、経営を続けられる方法を提案していきました。
持株会社化で「経営の効率化」と「納税資金の確保」を実現
では、相続対策も行いつつ、企業ひいては一族の永続的な発展を考えるなら、どのような対策をすればいいでしょうか。
当社が提案したのは、組織再編です。現在、横並びで存在している製造会社A社と販売会社B社を、株式交換によって親会社と子会社にすること。そして、親会社を持株会社(ホールディングス)とする方法をご説明しました。

持株会社化にはいくつかのメリットがあります。
まずは、経営の効率化を図れることです。意思決定が早まり、子会社は事業にだけ集中できるため、効率化が進みます。
また、株式を親会社に集中させることで株価上昇を抑えることも期待できます。C様が当初、解決したい課題としていた「納税資金の確保」の達成手段としても活用することができました。
株主が変わることなく、安定した経営ができる
そして、ここが最も重要なポイントですが、相続や金融機関からの融資を使って株を移したりする場合は、株主が変わってしまうのに対し、この株式交換での持株会社化は、株主はC様のままで変わることなく経営に関わることができます。安定した経営を継続することが可能なのです。
「そこが一番のメリットだと感じました」とC様も納得されていました。
一旦、C様による株式所有と経営の体制を維持しながら、将来的にベストな道を探っていくことができますし、株は持株会社がすべて保有するため、効率的な経営も可能になります。
事業承継だけでない「複数の選択肢」を提案
今回のケースでは、事業承継は急務ではありません。娘であるD様が会社を継ぐ意思を固めていない以上、いくつかの選択肢を検討する必要があります。親族内で承継するパターン、親族以外の人に承継するパターン、M&Aなど、D様の意志を確認するまでは、複数の選択肢を同時に検討していくことがベストです。
そのためにも、急いで株式譲渡をせず、現在の経営体制で安定した会社経営を行いながら、将来の事業承継に向けて準備していくのがいいでしょう。
当社の場合、事業承継だけでなく、M&Aや廃業の支援も行っています。こうしたさまざまな選択肢を念頭に置いたプランを提案させていただくことが可能です。
「部分最適」だけでは、不具合が起こることもある
「納税資金の確保だけできれば問題ないと思っていました。でも私の願いは、会社や一族の持続的な発展です。目先のことだけにとらわれず、一旦立ち止まって検討することができてよかったです」(C様)
C様にとって一番のメリットは、現状のまま経営を続けられること。それは、「全体最適」の視点で見通さなければ、揺るがされてしまう危険性がありました。
金融機関から提案された、株式譲渡のための融資。もちろん、それを受けて実行すれば課題が解決するケースもあるでしょう。ただ今回の場合は、部分的な解決にしかならず、最終的にはC様の望む形にはならないものでした。
個々の提案自体はいいと思われるものでも、「部分最適」だけを積み上げていけば、全体で見た時に不具合が起こることもあります。そのため当社では、全体最適の視点でのご提案にこだわっているのです。
未来を想定した「トータルプランニング」を行います
当初、「早急に子どもに株を移したい」と意気込んでおられたC様。目の前に喫緊の課題がある場合、先々のことまで見据えて動くのは難しいかもしれません。誰でも、短期決戦で解決できそうな方法があれば、それを採用したくなるものです。しかし、焦って判断を誤れば、先の未来で取り返しのつかない事態を迎えることになります。
当社では、最終的なゴールを想定しながら「全体最適」の視点で、トータルプランニングを行っております。ぜひ、お気軽にご相談ください。
- 松川 洋平Matsukawa Yohei
- 執行役員 コンサルティング事業本部 第一事業部 部長
1983年兵庫県生まれ。早稲田大学 商学部 卒業。
辻・本郷税理士法人にて、相続・事業承継の税務業務に従事、デロイト・トーマツ税理士法人にて、事業承継のコンサルティング業務に従事する。
2018年に株式会社青山財産ネットワークスに入社し、上場・非上場問わずオーナー経営者に対して、財産の承継・運用・管理の総合コンサルティングを提供している。
- 専門分野
- 企業オーナー向けコンサルティング
- 資格
- 税理士
- 著書
- 事業承継 親の心子知らず 子の心親知らず~19の失敗事例から導く「思い」「理解」「感謝」のない対策の行方~
