顧客情報:卸売業、所在地:首都圏、売上:約100億円(営業利益5億)、提供サービス:事業承継プランニング
最近、事業が好調で利益が出ている、という会社。多額の納税に備えて、利益対策をしようと考える経営者の方も多いかと思います。利益圧縮のための手段はいくつかあり、近年では、アメリカの不動産投資への人気も高まっています。
しかし、会社の利益を長期的な視点で見た場合、一体、どの商品が有効なのか。そして、そもそも利益対策は本当に必要なのでしょうか。正しく判断するためのポイントをご説明致します。
課題 | ・昨年度に続き、本年度も利益が出そうだが、法人税の負担が心配 ・提案されている利益対策の為の資産運用を始めてしまって本当に大丈夫なのか |
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提案 | ・事業承継プランニング |
「利益対策」の投資商品、本当に今購入する必要があるのか
「アメリカの木造不動産を購入しようと考えているんです」
そうおっしゃるのは、卸売業A社を営むB様です。前期から売り上げが好調で、今期も利益が出る見込みとのことですが、その法人税の負担に驚かれた様子。急ぎ、利益対策をしなくてはと慌てていらっしゃいました。
確かに、アメリカでは中古住宅の価値が落ちにくく、築22年以上の木造住宅は、4年間で減価償却することが可能であるため、取得すれば利益を圧縮することが可能とも言われています。利益対策として効果がある投資方法のひとつです。
ただ、それは本当に必要な対策なのでしょうか。
実は、会社の利益や発展を長期的な視点で考え、「全体最適」の観点で検証すると、必ずしもそうとは限らないのです。
「今は必要ない」という会社も少なくない
利益対策と言われるものには、大きく分けると2つの方法があります。
1つは、事業に必要なことを前倒しで行う方法です。たとえば、広告宣伝費などを前倒しで支払ったり、人材採用活動を前倒しで行ったりなど、事業に必要で将来的にやろうと思っていたことを今期中に行い、経費にして利益を圧縮するというもの。
もう1つが、 事業に関係ないもの、つまり資産を購入して、その減価償却を取って利益を圧縮するものです。一般的に利益対策というと、こちらのほうを思い浮かべる方が多いかと思います。B様が検討されていたアメリカの不動産投資もこちらにあたります。
2つめの方法は、すぐに効果を発揮します。ただ、長期的な視点で考えると、「今は必要ない」という会社も少なくないのです。それはなぜなのかを説明致します。
自社にとっての「全体最適」を検証したうえで投資する必要がある
まず、A社にとっての「全体最適」とは何でしょうか。
A社は非上場企業。近年、業績好調で、その傾向はこの先も続くと見られています。社長のB様は50代なのですが、後継者は決まっていません。急ぎではないにしても、将来的には事業承継を行い、お持ちの株を次世代へ相続していくことになるでしょう。
しかし、事業には「まさか」が起こるものですし、B様はまだお若いですが、急な相続が発生するかもしれません。
いずれにしても、その際には、少なくない納税資金が必要となります。その資金を準備しておく必要があります。
いつになるのかわからない事業承継や納税資金の確保に向けて、どのような準備をしておくのか。非上場企業であるA社の場合、運用する原資は、事業で稼いだお金になります。これを何年も現金のまま寝かしておくのか、保険や不動産に変えて運用していくのか。時間軸とともに、この納税資金をどう運用していくのかが肝となります。
つまり、長期的な運用の視点を持って、慎重に検討していく必要があるのです。
会社に「まさか」が起こった際に、現金がなくなってしまう
前述した、事業に必要のないものを購入する利益対策では、最初に多額の現金が出て行ってしまい、万が一の事態に備える現金が不足してしまいます。また、購入して数年間は利益を圧縮できるものの、資産を売却した際に売却益が発生することになります。A社にとっては、「全体最適」ではなく、「部分最適」の施策になってしまうのです。
もちろん、不動産の売却など、事業に直接関係のないところで急な利益が出て対策したいという会社もあるでしょう。その場合、B様が検討されていたようなアメリカの不動産投資というのは、現状においては効果的な方法だと言えます。
大切なのは、目先の利益だけでなく、会社が置かれている状況を冷静に分析し、将来も見据えて全体最適の視点で検討していくということです。
「円滑な事業承継」を見据えた、"本当に必要な"利益対策
では、A社はどのように利益対策を実行したのでしょうか。
結論から言えば、今回は利益圧縮のための投資はしませんでした。
B様には息子がいらっしゃいますが、事業承継をするのか、するならいつ頃するのかという課題があります。そして、安定的な利益が出ているとはいえ、卸売業という業態ゆえに「まさか」が起こり、売り上げが減ってしまうこともあるかもしれません。オーナーとして、現金をすぐに出せる状態にしておきたいという希望がありました。
「円滑な事業承継を見据えて、安定した環境で経営をしたい」というB様の一番の願いに立ち返り、当社でコンサルティングをさせていただきました。その結果を受けて、A社に必要な財産ポートフォリオを作成し、資産管理会社を設立する方法をとったのです。資産管理会社で金融資産と不動産を運用し、利益を確保することになりました。
「最悪のケース」までシミュレーションしたプランニングを
「アメリカの不動産投資以外にも、船舶リースや航空機リースといった投資についても検討していました。魅力的に感じていたのですが、会社の未来にまでは考えがおよんでいませんでした。こうして具体的にプランニングしていただけたことで、一旦立ち止まることができてよかったです」(B様)
当社の場合、「もし売り上げが1年間ゼロになったら」という最悪のケースまでシミュレーションしてプランニングを行っています。極端に思われるかもしれませんが、実際にコロナ禍でそのような危機に陥った会社もありました。
もちろん、オーナー様は経営のプロフェッショナルですから、感覚値でどれくらいの現金を持っておけば安心なのかという指標はお持ちかと思います。当社はそこを明確化してプランニングさせていただくことで、安定した経営のお手伝いができると考えています。
数字だけでは見えてこない、お客様の「想い」を大切にします
世の中には、利益対策のための優れた投資商品がたくさんあります。ただ、それらをどのように組み合わせれば、会社の未来にとってベストなのか。全体最適の視点で、検討する必要があります。
当社では、数字だけでは見えてこない、お客様が大切にしているものをすくい上げてプランニングを行っています。会社にとって、そしてお客様にとって何が一番"利益"となるのか。ぜひ、未来をつくるパートナーとして、並走させていただければと思います。
- 松川 洋平Matsukawa Yohei
- 執行役員 コンサルティング事業本部 第一事業部 部長
1983年兵庫県生まれ。早稲田大学 商学部 卒業。
辻・本郷税理士法人にて、相続・事業承継の税務業務に従事、デロイト・トーマツ税理士法人にて、事業承継のコンサルティング業務に従事する。
2018年に株式会社青山財産ネットワークスに入社し、上場・非上場問わずオーナー経営者に対して、財産の承継・運用・管理の総合コンサルティングを提供している。
- 専門分野
- 企業オーナー向けコンサルティング
- 資格
- 税理士
- 著書
- 事業承継 親の心子知らず 子の心親知らず~19の失敗事例から導く「思い」「理解」「感謝」のない対策の行方~
