
不動産小口化商品は、多額の資金が不要で少額から投資できるため、不動産投資への参入障壁を下げる手法として注目を集めています。
不動産を小口化することで、投資家は投資先の選択肢をさらに拡大でき、資産運用の可能性を広げることができるのが大きな特徴です。この記事では、不動産小口化商品の基本、メリット・デメリット、選び方のポイントまで分かりやすく解説します。
不動産投資に関心のある法人にとって、この情報はきっと役立つでしょう。ぜひ最後までお読みいただき、不動産投資の新たな可能性を見つけてください。
不動産小口化商品とはどんなもの?
不動産投資に興味はあっても、初期費用の大きさがネックとなり、なかなか一歩を踏み出せない人は少なくないでしょう。
例えば、中古マンションでも数千万円が必要で、オフィスビルや商業施設になると、数億~数十億円に達することもあります。こうした規模の資金は、株式や投資信託のように気軽には出せず、さらに物件の選定や管理運営に関する知識や経験も求められるため、参入のハードルは決して低くないでしょう。
こうした課題を抱える方にとって、有力な選択肢となるのが「不動産小口化商品」です。これは、通常は高額な不動産を1口あたり1万~1,000万円程度に小分けし、複数の投資家に販売する仕組みです。そこから生まれる賃料収入や物件売却による利益は、出資額に応じて投資家に分配されます。
不動産小口化商品の大きな魅力は、少ない資金から不動産投資を始められることに加えて、空室リスクなどをほかの投資家と分担できるため、リスクの軽減が図れる点にあります。
さらに、物件の管理や運用は専門の事業者が担うため、自分で不動産を所有・管理する場合に比べて、手間がかからず、初心者でも取り組みやすいのが特長です。
不動産特定共同事業法について
不動産小口化商品の歴史は古く、昭和末期のバブル経済期まで遡ります。約35年前の1987年、大手デベロッパーが手掛けた第1号(共有持ち分権の信託方式)が登場しました。地価高騰や不動産価格の急激な上昇が進む中、小口に分けて購入しやすくした商品として人気を博しました。
しかし、バブル崩壊と共に大幅な収益悪化や事業者の経営破綻が相次ぎ、出資金が戻らない投資家の被害が続出しました。そこで、投資家保護のため、1994年に「不動産特定共同事業法(FTK法)」が制定され(翌95年施行)、これ以降、不動産小口化商品を扱う事業者は、同法に基づく公的な許可が義務付けられるようになりました。
これにより、事業者の資本金や経営基盤が厳しく審査されるようになったのです。
当初、最低出資単位が1億円と高額だったため販売は伸び悩みましたが、1999年に500万円に緩和されてから市場が急拡大しました。さらに、2001年に最低出資規制が撤廃されて以降、市場は大きく成長しました。
2008年のリーマンショックで市場が縮小するまでは、一口あたりの出資金額は500万円または1,000万円が主流だったようです。
一時的な停滞期を経て、2013年以降、3度にわたる法改正が行われ、参入事業者のハードルが緩和されました。これにより、インターネットで出資を募る不動産クラウドファンディングといった新たな事業者が登場し、市場は回復傾向にあります。
以前は、賃貸マンション、オフィスや店舗ビル、ホテルといった一棟物件が主な取得対象でしたが、最近では区分物件・大規模改修、官民連携のまちづくりなど、さまざまなプロジェクトに広がっています。
従来の不動産投資との違い
不動産投資を考えるとき、最初に思い浮かぶのは、アパートやマンション1棟、または区分所有の1室を購入する「実物不動産」への直接投資ではないでしょうか。こうした投資では、物件から得られる家賃収入や、将来的な価格上昇による売却益を狙うのが基本です。
自分で所有する物件なので、管理方法や売却のタイミングを自由に決められる一方で、マンション1棟のような高額物件を購入するには多額の資金や融資が必要となります。
また、建物の維持管理に手間がかかる上、希望する時にすぐに売却できるとは限らないなどの課題もあります。
これに対し、不動産小口化商品は、任意組合型であれば1口100万円ほどから始められるものもあり(商品ごとに最低口数の制限あり)、少額から投資が可能です。すでに小口に分けられた商品であるため、相続時にも分配しやすく、相続人間の争いを避けやすいという利点があります。
REITとの違い
REIT(リート:不動産投資信託)とは、投資信託の一形態であり、不動産投資法人が投資家から集めた資金を使って、オフィスビルや商業施設、マンションなど複数の不動産を取得し、そこから得られる賃料や売却益を分配する仕組みの金融商品です。
REITでは、不動産そのものを購入するのではなく、証券取引所を通じて投資信託の証券を売買するため、高い流動性があり、好きなタイミングで売買できるという特徴があります。銘柄によって異なりますが、数万円から数十万円と比較的少額で投資可能です。
ただし、REITは不動産市場に特化した商品であるため、不動産市況の変化や金利動向に影響を受けやすく、賃料の下落などによって分配金が減るリスクや、価格の下落リスクが伴います。
また、証券市場で取引されることから、需給バランスの影響で価格が大きく変動する可能性もあります。加えて、上場廃止や投資法人の経営破綻により、価格の大幅な下落や売買の停止が起きるリスクも存在します。
これに対して、不動産小口化商品は、特定の不動産への投資という構造になっており、REITのように複数の物件へ資金が分散されることはありません。
投資対象不動産の収益性が直接的に分配金や売却益に反映されるため、プロが厳選した物件の中から、自分の判断で将来性が期待できる不動産を選ぶことができます。
不動産クラウドファンディングとの違い
不動産クラウドファンディングとは、不動産事業者がインターネットを通じて多数の投資家から資金を集め、その資金で不動産を取得・運用する投資方法です。
あらかじめ物件の築年数や管理状況などの情報が開示されており、投資家は公開中の案件から自分で投資対象を選べるのが大きな特徴です。不動産小口化商品と同じく、契約形態には匿名組合型または任意組合型が採用され、最低出資金額や運用期間はサービスごとに異なります。
不動産小口化商品との相違点としては、クラウドファンディングのほうが少額かつ短期から投資できる点が挙げられます。そのため、不動産投資を初めて行う方でも、比較的手軽にスタートしやすいといえるでしょう。
ただし、投資先によっては運用期間中に解約ができないケースもあり、資金の流動性や換金性が低くなるリスクがある点には注意が必要です。中途解約が認められていない場合、運用期間が終了するまで資金を引き出せない可能性もあるため、事前の確認が欠かせません。
不動産小口化商品の種類

不動産小口化商品には、主に「任意組合型」「匿名組合型」があります。また信託型等として分類すべきものも存在します。それぞれの構造やメリットを把握することで、ご自身に適した投資方法を見つけやすくなります。
任意組合型
任意組合型は、投資家と事業者が任意組合契約を結んで不動産事業を共同で行うスタイルです。出資の方法は現物出資と金銭出資があり、現物出資の場合は不動産の持分登記も可能となります。不動産は投資家全員の「共有財産」となり、各投資家はそれぞれの出資比率に応じた持分の所有権を有します。
長期間の運用に向いており、安定した収益を重視する人に適しています。収益は不動産所得として課税され、確定申告が必要ですが、減価償却が可能です。
匿名組合型
匿名組合型は、事業者が投資家から出資を募り、匿名組合契約を通じて運用する形式です。投資家は不動産の所有権を持たず、運営は事業者が行います。金融商品に近い性格を持つといえます。
このタイプでは分配金が雑所得扱いになります。
信託型等
信託型は、信託された不動産から生じる収益を受け取る形式です。
「信託」とは、自ら所有する財産を信頼できる個人や法人に託し、管理・運用を任せる仕組みです。このとき、財産を託す側を「委託者(いたくしゃ)」、運用・管理を行う側を「受託者(じゅたくしゃ)」、そして運用益を受け取る側を「受益者(じゅえきしゃ)」と呼びます。
信託の対象には現金や有価証券、不動産などがありますが、もちろん不動産を対象にしたものです。
この不動産信託受益権は、REIT(上場不動産投資信託)などの不動産ファンドの主要な投資対象です。多くのファンドは、取得した不動産を信託受益権化し、さらに小口化された不動産信託受益権を扱う商品も登場しており、少額の資金で不動産投資を行いたい投資家から高い関心を集めています。
不動産小口化商品を法人購入するメリット
この章では法人が不動産小口化商品を導入するメリットについて解説します。
少額資金から不動産投資がスタートできる
不動産小口化商品は、数万円程度から投資を始められるケースもあり、少額での参加が可能です。そのため、従来のように一つの物件にまとまった資金を投じるスタイルとは異なり、複数の物件に分散して出資することが容易です。
リスクを分散して投資できる
少額から始められる不動産小口化商品は、分散投資がしやすいという利点も持っています。
一口あたりの投資額が小さいため、複数の物件への投資がしやすくなり、地域や物件タイプを分散させた投資が実現できます。これにより、空室発生や自然災害といったリスクを軽減できるでしょう。
さらに、不動産小口化商品なら、不動産投資に充てる資金の細かな調整が可能です。ご自身の資産状況に合わせた適切な額の不動産資産を組み込むことで、よりリスクに強く、健全な資産ポートフォリオを築けます。
管理の手間がかからない
不動産投資における大きな負担の一つが、物件の管理・運用業務です。一般的な不動産投資では、賃貸管理会社を利用しない限り、入居者の募集、家賃管理、修繕、クレーム対応など、多岐にわたる手間がかかります。
しかし、不動産小口投資の場合、事業者が最初からすべての管理業務を担当します。そのため、投資家は入居者対応や修繕対応といった負担を負うことなく、収益を得ることができます。
これは特に、会社員の方や、副業として不動産投資を考えている方にとって、非常に大きなメリットとなるでしょう。
プロ厳選の優良物件に投資可能
不動産小口化商品の利点として、投資対象となる不動産を専門家が選定している点が挙げられます。
プロの事業者は、建物や立地などを詳細に調査し、将来的な収益性や資産価値が見込める不動産を選んで購入します。そうしたプロが選定する不動産の中には、一般的な物件だけでなく、個人では購入が難しい大型マンションや商業ビルなども含まれており、これらの物件にも投資が可能です。
専門家が選んだ不動産に投資できるため、自分で物件を選ぶよりも成功する可能性が高いといえます。初心者にも取り組みやすく、物件選定の手間が省ける点が魅力です。
不動産小口化商品のデメリット
この章では不動産小口化商品のデメリットを解説します。
さまざまなリスクが存在する
- 利回りが低い傾向:現物の不動産投資と比べて、管理費や手数料が差し引かれる分、得られる収益の割合が低くなることがあります。
- 融資の利用ができない:原則として自己資金での投資となり、不動産投資ローンなどは利用できません。
- 元本割れリスク:空室の増加や資産価値の減少によって、投資した金額を下回る可能性があります。
- 価格変動リスク:不動産市場の動向によって、投資対象の価値が変動する可能性があります。
- 収入保証の不確定:賃料収入や元本が保証されていないため、予想よりも収益性が低くなることもあり得ます。
- 流動性リスク:基本的に長期運用が前提で途中解約が難しく、現金化しにくいという側面があります。
- 信用リスク:事業者の経営破綻などにより、元金の返還や分配金の支払いが困難になる可能性もゼロではありません。
- 環境リスク:環境問題(例えば自然災害など)によって、不動産の価値や収益性に影響が出る可能性があります。
- 対象不動産の滅失リスク:不動産の損傷や劣化によって、価値が低下する可能性もあります。
これらのリスクを十分に理解し、ご自身の投資目的や許容できるリスクの範囲に合わせて、慎重に検討することが重要です。
金融機関からの融資(ローン)が利用できない
現物の不動産投資では、金融機関からの融資を受けて収益物件を購入することが可能です。
金融機関にもよりますが、融資を利用する場合、物件価格の10%から20%程度の頭金を用意するのが一般的です。自己資金以上の大きな投資を行えるため、少ない手元資金で効率的に収益を上げる可能性も生まれます。
しかし、不動産小口化商品への投資では、通常、金融機関からの融資は受けられません。そのため、借り入れを活用して不動産投資を行いたいと考えている方にとっては、これが大きなデメリットとなるでしょう。
不動産小口化商品の税務・会計の注意点
この章では不動産小口化商品の税務・会計において注意すべき点についてご紹介します。
不動産小口化商品は、不動産を小口単位で分割し、複数の投資家が持分を所有する仕組みの商品であり、会計処理(経理処理)は、その商品形態(任意組合型、匿名組合型など)によって異なります。
契約形態で損益の扱いが変わる
任意組合は構成員課税、匿名組合は営業者、信託型は受益者に課税され税務処理が異なります。
減価償却が適用されるかは契約形態次第
建物部分は減価償却資産として処理します(任意組合型の場合)。定められた耐用年数で減価償却処理を行います(通常の不動産投資と同様)。一方匿名組合型は減価償却不可です。
土地部分は非減価償却資産として計上します。
税の取扱いにも注意が必要
投資家が課税事業者であれば、持分に応じて消費税の申告・経理処理が必要です。
任意組合型や信託型における収入の消費税の区分処理と仕入税額控除には注意が必要です。なお居住用不動産の賃貸収入については消費税は非課税です。
財産管理報告書以外に発生した独自経費は見落としやすいので、都度記帳が推奨されます。
不動産小口化商品の法人での活用

不動産小口化商品は資産運用を実現できる有効な手段として、企業の経営戦略に取り入れられるケースが増加しています。
この章では、法人が不動産小口化商品を活用する際に検討できるヒントをご紹介します。
役員報酬や退職金と組み合わせる
役員報酬や退職金は法人の損金として扱うことができるため、不動産小口化商品と組み合わせて使うことで、税務上のメリットをより高めることができます。
例えば、将来支給予定の退職金の資金を小口不動産に振り向ければ、減価償却により法人税の負担を軽減しながら、将来の支出に備えることが可能です。
法人と個人で目的に応じて使い分ける
不動産小口化商品は法人だけでなく、経営者個人でも有効に活用できます。
法人では出資による減価償却を通じて利益を調整します。
法人と個人の両面から活用することで、より効果的な資産管理が実現します。
目的や用途に応じた不動産小口化商品の比較ポイント
不動産小口化商品を購入する際には、投資目的や活用方法に応じて、次のようなポイントを比較・確認することが大切です。
運用期間の長さ
小口化商品ごとに運用期間は異なり、10年から30年まで幅広く設定されています。短期的な収益を狙いたいのか、それとも長期保有による資産形成を目指すのかによって、選ぶべき商品の運用期間も変わってきます。
ご自身の投資方針に合った期間の商品を選びましょう。
各種手数料の確認
相続の一環として不動産小口化商品を利用する場合、名義書換にかかる手数料にも注意が必要です。
そのほかにも初期契約費用、運用中の管理報酬、中途解約や売却に関わる費用など、商品ごとにコスト構造は異なります。全体のコストを把握し、比較した上で商品を選ぶことが重要です。
このような点も事前に比較し、総合的に判断することをおすすめします。
まとめ
今回は、不動産小口化商品を法人活用した際のメリットをご紹介しました。
ポートフォリオの分散など、法人にとって多彩な利点があります。しかし、契約形態による税務上の取り扱いの違いや、信頼できる事業者の選定が重要である点にも留意が必要です。
検討段階では専門家の意見を仰ぎながら、自社の状況に合った無理のない導入計画を立てましょう。
不動産小口化商品の法人での活用については、ぜひ弊社青山財産ネットワークスにご相談ください。
監修者
- 相澤 光Aizawa Hikaru
- コンサルティング事業本部 コンサルティングサービス室 室長 兼 第四事業部 ダイレクトグループ グループ長
不動産や法人を活用した財産防衛策の立案・実行に従事し、財産と想いを次世代に承継するための支援を提供。最適な選択肢を見つけられるよう、中立的な立場で家族全体の意向調整もサポートすることを信条とする。
当社の30年にわたるナレッジを集約した書籍を発行し、セミナー登壇実績も多数。
趣味:学び(税理士資格の勉強中)、ギター、サウナ
- 専門分野
- 土地持ち資産家、金融資産家向けコンサルティング
- 資格
- 1級ファイナンシャル・プランニング技能士、公認不動産コンサルティングマスター、宅地建物取引士
- 著書
- 「5つの視点」で資産と想いを遺す~人生100年時代の相続対策
