
「ガバナンス」という言葉は、企業の統治体制、つまり会社をどう正しく・公正に運営するかという仕組みを指すことが一般的です。つまり、上場企業のガバナンス改革の文脈で言われるいわゆる「コーポレートガバナンス」がこれにあたります。
ところが、創業一族が経営者やオーナーとして経営に深く関わるファミリービジネスの場合、会社を正しく公正に運営しかつ次世代に繋げていこうとした場合に、コーポレートガバナンスの整備だけでは不十分な場合があります。それは、企業の所有者である一族の、会社に対する想いやビジョンがバラバラで意思決定不全に陥ってしまっている場合です。会社という「器」のガバナンスだけ整えても、その器を所有する株主の関係性が不安定では、ファミリービジネスの強みである長期志向や迅速果断な意思決定、一族理念に基づくステークホルダーに対する一貫して公正な利益分配といった特徴を十分に発揮することが困難になるばかりか、そもそもの事業の継続性も危ぶまれかねません。
そこで昨今注目されているのが、この記事のテーマであるファミリーガバナンスです。これは簡単にいえば、「資産や事業をよりよくして次世代に繋ぐための、ファミリー(創業家・一族)全体での、大切にする理念・価値観の共有や、意思決定の枠組み」のことです。
ファミリービジネス白書(2022年版)によれば、日本の上場企業の約49%、非上場企業を含めると90%超がファミリービジネスであるとされています。さらに経済産業省が2024年に新たに設けた中堅企業の分類においても、約9,000社のうち上場企業で約900社、非上場企業で約3,600社がファミリービジネスであるとされ、やはり日本企業の約半数がファミリービジネスです。こうしたことから、日本経済の土台はファミリービジネスといっても大げさではありません。その「土台」を次の世代、さらにその次の世代へとよりよくしてつないでいくための鍵が、このファミリーガバナンスなのです。
そこでこの記事では、
- ファミリーガバナンスとは何か
- なぜ今それが求められているのか
- どのような手法・仕組みで構築していくのか
- そして、仕組みの奥にある哲学的な視点
などを分かりやすく解説していきます。
そもそもファミリーガバナンスとは何か?
この章ではファミリーガバナンスの概要について解説します。
ファミリービジネスを「長生き」させるための仕組み
ファミリーガバナンスとは、一言でいうと、「一族のルールと話し合いの場から成る意思決定の仕組み」のことです。
以前は日本にも、三井家の宗竺遺書・三井家憲に代表されるように、家のルール、現在でいうファミリーガバナンスを構築し家業を守る取り組みがありました。しかし今の日本の企業の多くが戦後創業したことから、まだ一族と事業が一体の会社が多く、ここ数十年は必ずしもファミリーガバナンスが必要とされる企業は多くない状況でした。しかし現在では、戦後創業した企業の多くがその2世代目・3世代目をむかえ、かつファミリービジネスに対する再評価も進んでいます。そうした中、経産省も中堅企業成長ビジョンで「ファミリービジネスの長所を残しつつ、短所となるリスクに適切に対処していくファミリーガバナンスが、中堅企業が成長を続けていくために必要不可欠となる」と述べるなど、ファミリービジネスがその強みを生かし結果として長く続くために、必須の考え方と見られるようになっています。
そのファミリーガバナンスが守ろうとする価値は、次のようなものです。
- 一族で経営しているビジネス(本業)の継続と成長
- 一族がもつ株式・不動産・金融資産などの円滑な承継・運用・管理
- 一族の潜在的利害関係の調整による紛争の防止
- 一族としての一体感や信頼関係の醸成
つまり、会社の株式に代表される有形資産だけでなく、一族の価値観や絆といった無形の資産も守り、家族と財産を含めた「一族全体の繁栄」を実現するために、どう一族の運営方針や対話の場を設計するかが、ファミリーガバナンスの主題です。
なぜ今、ファミリーガバナンスがクローズアップされているのか
近年、ファミリーガバナンスが注目されている理由として、いくつかの大きな流れがあります。
承継が進むほど顕在化する問題
多くのファミリービジネスで、創業者や2代目が高齢期を迎えています。特に業歴が長く業績が堅調な企業ほど、承継に伴い以下のような問題が顕在化します。
- 一族の次世代に経営承継者がいない
- 会社の更なる成長を考えれば、経営者を一族出身者に限定するわけにはいかない
- 株式を一人に集約しきることができず、分散が進む
こうした問題に対し、ファミリーガバナンスは、「誰が継ぐのか」だけでなく、「どう継ぐのか」「一族全体でどう支えるのか」まで含めて整理するための『地図』の役割を果たします。
経営環境の変化が激しすぎる
- グローバル競争の激化
- デジタル化・技術革新のスピードアップ
- 顧客ニーズの多様化・価値観の変化
こうした変化に対応するには、企業において早く・正しく・柔軟に意思決定する力が欠かせません。まさに、ファミリービジネスの強みである迅速果断な意思決定が求められます。
しかし、後述するようにファミリービジネスのガバナンスは二重構造になっておりコーポレートガバナンスの土台としてファミリーガバナンスがあるため、家族がバラバラな方向を向いていると、意思決定のたびに「身内の調整」が必要となり、会社の経営のスピードが落ちる、悪影響が非一族の役職員にも波及するといった問題が起こります。
こうした問題に対し、ファミリーガバナンスを整えることで、「一族として何を優先するか」の共通軸ができ、経営の意思決定もブレにくくなります。
国レベルでも「ファミリーガバナンス規範」が検討されている
前述のとおり、経済産業省はファミリーガバナンスの重要性に着目しており、全国のファミリービジネスにファミリーガバナンスの浸透を図るため、2025年に「ファミリービジネスのガバナンスの在り方に関する研究会」を立ち上げ、「ファミリーガバナンス・ガイダンス(仮称)」の公表に向けた議論が始めています。
今や、ファミリーガバナンスは「一部の意識の高い一族だけが考えるテーマ」ではなく、日本経済全体のためにも「多くのファミリービジネスが取り組むべき課題」として、社会的にも注目されているのです。
ガバナンスの「二重構造」:会社と一族は切り離せない
ファミリービジネスを理解する上で重要なのが、コーポレートガバナンス(企業側)とファミリーガバナンス(一族側)が二重構造になっているという考え方です。
コーポレートガバナンス
コーポレートガバナンスとは、会社を正しく・公正に運営し持続的企業価値向上を実現するための仕組みのことです。
- 経営者の独善的な行動を防ぐ。
- エントレンチメントに陥ることを防ぎ、長期的な企業価値向上を促す
- 株主や従業員、取引先、顧客など、さまざまなステークホルダーの利益をバランスよく考える
代表的にはこのような役割を持ちます。
こうしたコーポレートガバナンスの役割には、2つの側面があります。
- 「守り」のガバナンス:不正や暴走を防ぎ、コンプライアンスを守る
- 「攻め」のガバナンス:リスクを適切に取りながら、企業価値を高める挑戦を後押しする
このようにコーポレートガバナンスが実現しようとすることは、上場企業だけに求められるものではありません。上場企業と同じマーケットで競争する以上、中堅・中小企業でも、このコーポレートガバナンスの視点は重要になっています。
ファミリーガバナンス
一方で、ファミリーガバナンスは「一族」を対象にした統治の枠組みです。
ファミリービジネスの関係者には、非ファミリービジネスにも存在する経営陣・株主に加え、一族という3つめの存在があります。
そのため、ファミリービジネスであることを前提としない上場企業を対象としたコーポレートガバナンスの議論ではカバーしきれない「一族の問題」がファミリービジネスには必ず生じるのです。
ファミリービジネス特有の「二重構造」
ファミリービジネスに関する研究では、ファミリービジネスは、土台にファミリーガバナンスがあり、その上にコーポレートガバナンスがあるという二階層構造で捉えられています。
- 一族の価値観やルールがバラバラ
- 一族内での権力争いや不信感が強い
従って、このようにファミリーのガバナンスが不安定な状態で、いくらコーポレートガバナンスだけ強化しても、うまく機能しません。
この「二重構造」を理解することが、ファミリービジネスの長期的な繁栄には不可欠です。
「スチュワードシップ」という未来に対する責任
ファミリーガバナンスを考える上で重要なキーワードがスチュワードシップ(受託者責任)です。
スチュワードシップでは、ファミリービジネスの当事者達を以下のように捉えます。
- 現在の一族株主:未来の一族から財産を預かっている受託者
- 未来の一族株主:委託者であり、最終的な受益者
つまりスチュワードシップとは、今の世代は未来の一族から財産を預かっている以上、「自分たちの代で使い切る」のではなく、「預かっている財産を守り、よりよい状態で次の世代に渡す責任を負っている」という考え方です。
ファミリーガバナンスがないと何が起こるのか

「何となくうちの家族は仲がいいから大丈夫」「これまで大きな問題は起きていないし...」と思っていると、あるタイミングで一気に問題が噴き出すことがあります。
この章では、ファミリーガバナンスが整っていない場合に起こりがちな代表的なリスクを整理します。
経営トップの暴走・会社の私物化
特に非上場のファミリービジネスでは多くの場合、
- 大株主=経営者
- コーポレートガバナンスにおける監督役と執行役が事実上同じ人物
となり、重要な意思決定の多くが、創業者や一人のトップに集中している状況が生まれがちです。
このような状況で十分なガバナンスが機能していないと、
- 「会社の資産」と「家族の財布」が混ざる
- 個人的な好き嫌いで投資や人事が決まる
- 反対意見が言いにくく、ワンマン経営になる
といった状態に陥り、最悪の場合、業績悪化や信用失墜といった深刻な結果につながります。
ファミリーガバナンスは、トップの権限と責任の線引き・監督機能の設置・倫理規定や家族としての行動規範の明文化を通じて、コーポレートガバナンスとセットとなってワンマン経営や私物化等を防止する役割を担います。
「お家騒動」として表面化する家族内紛争
事業承継・業容拡大・上場・M&Aなど、企業にとって大きな転機は、同時に家族にとっての事件でもあります。
- 誰がどれだけ株式や資産を受け取るのか
- 経営に参加できるのは誰なのか
- 配偶者や子どもはどこまで関われるのか
こうした問題に、事前のルールや合意がないまま臨むと、兄弟姉妹間の対立、親子間の対立、その他親族間の対立が発生し、場合によってはマスコミに取り上げられるような「お家騒動」に発展することもあります。
こうした問題が起きてから慌ててルールをつくろうとしても、すでに感情がこじれてしまっていて、冷静な対話ができないケースが少なくありません。
ファミリーガバナンスで例えば予め以下のような事項を一族間で合意し文書化しておくことで、争いの芽を事前に摘むことができます。
- 一族が一族事業を所有、経営する目的
- 株の保有割合や議決権のルール
- 経営参画の条件やプロセス
- 配当や報酬の考え方
後継者が孤立し、事業承継がうまくいかない
事業承継は、ファミリービジネスにとって最大の山場の一つです。
- 形だけ株式と役職を譲る
- 十分な準備や訓練のないまま、いきなりトップを任される
- 一族全体での支援体制がない
このような状況では、後継者は
- 親族からはプレッシャーだけ受ける
- 社内では"親の七光り"といわれる
- 経営の方針を変えようとすると反発される
このような板挟みになりやすく、経営判断も弱気になってしまいます。
ファミリーガバナンスの枠組みを通じて、後継者候補の選定プロセス、教育・育成の計画、一族としてどう支えるかの役割分担を事前に決めておくことで、後継者に孤軍奮闘させず、事業承継がスムーズに進む可能性が高まります。
富裕層ファミリーが陥りがちな典型的リスク
資産規模が大きくなるほど、次のようなリスクが現実味を帯びてきます。
- 一部の少数株主が反乱を起こす少数株主リスク
- 後継者候補が途中で脱落してしまう後継者の脱落リスク
- 離婚の財産分与により、自社株・不動産が配偶者側に流出するリスク
- 子や孫が散財し、資産が世代をまたぐ前に消えてしまうリスク
- 遺留分侵害額請求など、相続時の法的トラブル
- 一族の一部がクーデターのように動き、経営権が不安定になるリスク
これらは、「たまたま起きた不運」ではなく、仕組みである程度コントロールできるリスクです。
ファミリーガバナンスを整えることで、「起こるかもしれないリスク」を前提に対策していくことが可能になります。
どうすれば整えられる?ファミリーガバナンス構築のステップ

ファミリーガバナンスは、一夜にして完成するものではありません。多くの場合、
- 家族憲章
- 一族会議体(一族総会/一族会議)
などの仕組みを、時間をかけて整えていきます。
ステップ1:家族憲章をつくる
家族憲章とは、一族の価値観や行動基準、事業や資産についての基本的なルールをまとめた文書で、一族にとっての「憲法」のような位置づけです。
主な内容には、次のようなものがあります。
- 一族としてのミッション・ビジョン・価値観
- 事業への基本的なスタンス(例えば「本業は売らない」「プロ経営者を積極的に活用する」など)
- 株式承継のルール(誰に・どのように引き継ぐか)
- 配当政策や報酬の考え方
- 一族メンバーの行動規範(会社の名誉を傷つける行為の禁止など)
ここで重要なのは、ルールを上から押しつけるのではなく、一族で話し合ってつくり上げる「合意のルール」にすることです。
ステップ2:一族会議体をつくる
家族憲章という「ルールブック」を作ったら、それを実際に運用するための「場」が必要です。それが、一族会議体です。
一般的には、役割の違う2つの会議体を設けます。
一族総会
- 一族全員が参加する会議体
- 会社の現状・業績・方針の共有
- 一族の活動(教育、社会貢献など)の報告
- 家族憲章の見直しの議論 など
会社でいう株主総会に近いイメージです。
「まずは年に1回食事で集まるところから」というケースもあります。
一族会議
- 一族の中から選ばれたメンバーが参加する意思決定を担う会議体
- 家族憲章に基づき、具体的な決定・調整を行う
- 後継者育成や資産運用、配当方針などの重要テーマを審議
企業でいえば取締役会に相当します。
この2つを適切に使い分けることで、一族全体の情報共有や一体感の維持と、実務的な意思決定による課題解決の両立を図ることができます。
ステップ3:ファミリーオフィスを設ける
ファミリーオフィスは、一族が保有する事業や資産を永続させ、次世代につないでいくことを目的に、お金・事業・人脈・価値観・家族の絆といった、目に見えるもの・見えないものの両方を扱いながら、「一族の世代を超えた充実した人生と幸せ」を支える司令塔のような存在です。そこで青山財産ネットワークスでは、ファミリーオフィスを「ファミリーの充実した人生と幸せな繁栄、その世代を超えた実現を目的として、ファミリーの財・体・心をバランスよく拡大する役割を担う組織」と定義しています。
具体的な役割には
- 株式・不動産・金融資産等の一括した承継・運用・管理
- 一族の次世代教育プログラムの運用
- 社会貢献・慈善活動の企画・運営
- 一族の行事やコミュニケーションの企画(ファミリーガバナンス)
などがあり、見える資産と見えない資産の両方をカバーします。
一族が持つ株式をファミリーオフィスで集中して管理することで、少数株主がクーデターを起こすリスクや、相続のたびに株式が細かく分散していくリスクを抑えやすくなります。また、資産を一元管理することで、「誰か一人の浪費で、一族全体の資産が失われる」といった事態を避け、世代を超えた豊かさの維持を目指すこともできます。
ファミリーガバナンスを制度で支える選択肢
ファミリービジネスが持続的に成長するためには、家族・所有・経営の3つの領域が複雑に絡み合う中で生じる潜在的利害対立を調整する「ファミリーガバナンス」の構築が不可欠です。
特に、経営者の独善的行動やエントレンチメント、「お家騒動」、後継者不在といったリスクを回避するためには、法的な制度を適切に活用することも重要となります。
以下に、ファミリーガバナンスで活用される主要な法的選択肢を解説します。
「株主間契約」で"所有"を守る
ファミリービジネスにおいて、世代交代が進むにつれて株式が親族間で分散し、意思統一が困難になることは大きなリスクです。
この株式の分散を防止し、安定的な「所有」を維持するために有効なのが「株主間契約」です。親族株主間での株式譲渡の制限や、特定の事由が生じた際の買取ルールをあらかじめ合意しておくことで、外部への流出や望まない分散を防ぎます。
「種類株式」で"意思決定"のズレを防ぐ
経営権を特定の承継者に集中させつつ、ほかの親族には経済的利益(配当など)を分配したい場合、「種類株式」の活用が効果的です。
「無議決権株式」を発行して遺留分対策に充てる、あるいは「黄金株(拒否権付株式)」を活用して重要な意思決定をコントロールする手法があります。
「定款改正」で"ルール"を明文化する
ファミリー内の合意事項や経営ルールを、単なる「暗黙の了解」から法的拘束力のある「明文化されたルール」へ移行させるために、定款改正は重要なステップです。
企業文化や理念といった「インフォーマル」なルールを、会社法に基づく「フォーマル」なガバナンスへと組み込むことで、組織としての透明性と規律が高まります。
「遺言」で"将来の混乱"を回避する
カリスマ経営者の急逝後に発生する相続争いは、ブランド価値を毀損させ、最悪の場合は経営の行き詰まりを招きます。
「将来の混乱」を回避するもっとも基本的かつ強力な手段が「遺言」です。
誰にどの資産(株式や事業用資産)を承継させるかを明確に示すことで、相続人同士の対立を未然に防ぎます。
「信託」で"承継と管理"を安定させる
近年、ファミリーガバナンスを支える高度なツールとして注目されているのが「信託(民事信託・家族信託)」です。財産権(配当を受け取る権利)と議決権(経営をコントロールする権利)を分離できる点が最大の特徴です。
株式を信託財産にして受託者に管理させることで、相続が起きて「株主(=議決権行使の主体)が細切れになる」リスクを抑えやすくなります。
例)
- 委託者(子供世代など)が保有株式を信託
- 受託者(現社長、または一般社団法人など)が議決権を行使して会社を運営
- 受益者(多くの場合委託者)が配当などの利益を受け取る
所有(経済的利益)と支配(議決権のコントロール)を、同じ人に持たせなくていいのが信託の強みです。
またファミリーでよく起きるのが、オーナーの判断力がなくなって株式・不動産が凍結されるパターンです。
信託では、契約(信託行為)の中で後継の受託者や運営ルールをあらかじめ置くことで、意思決定が止まるリスクを下げる設計が可能になります。
さらに遺言だけでは、相続のたびに株が分散したり、もめたりしがちです。
信託では、例えば以下のようにできます。
- 第1受益者:配偶者
- 第2受益者:後継者(長男)
- 第3受益者:孫世代
このように受益者(利益を受ける人)を段階的に移す設計で、承継のたびの不確実性を減らす考え方が取られます。
こうした制度の活用は、一族の状況や会社の資本構成に応じた柔軟な設計が求められます。専門家の支援を得て、自社・ご一族に適したガバナンスの枠組みを整えていくことが、ファミリービジネスの永続に不可欠です。
哲学的な視点から見るファミリーガバナンス
ここまで、仕組みや制度の側面からファミリーガバナンスを見てきました。しかし実際には、それだけでは十分ではありません。
ファミリーガバナンスの土台には、
- 人間としてどう生きたいか
- 家族としてどうありたいか
- 一族として何を大事にするのか
このような人間性や哲学に関わる問いが横たわっています。
ヒューマニズム:人間を中心に据える視点
ファミリーガバナンスは、「家族」という生身の人間を対象にしています。
- 喜びや誇り
- 嫉妬や不満
- 不安やおそれ
- 親子・兄弟姉妹ならではの複雑な感情
こうしたものを抜きにして、制度だけを整えても機能しません。
テクノロジーが進み、何でも効率化・合理化できる時代だからこそ、「人間らしさとは何か」「守るべきものは何か」という視点を忘れないことが大切です。
ガバナンスもまた、人間を中心に据えて考える必要があります。
「対話の文化」と、不安を抱えながら進む力
ファミリーガバナンスの中心的な機能は、一族の公式な対話の場をつくることです。
- 異なる世代・立場のメンバーが本音で話し合う
- 不満や不安も含め、きちんと対話のテーブルに乗せる
- すぐに答えが出ないテーマも、冷静に忍耐強く対話を続ける
こうした「対話の文化」が一族に根付いていないと、どんなに立派な憲章や契約があっても、現実には機能しません。
また、専門家が介入すると、つい「問題をできるだけ早く解決し、すべてをスッキリさせる」ことを目指しがちですが、それが必ずしも最良とは限りません。
むしろ、リスクや不確実性、不安を抱えつつ、それでも対話を続け何度も検討しながら、少しずつ前に進むというプロセスのほうが、一族全体の成熟につながることがあります。
ここで重要なのが、以下の両方をどうバランスよく持つかという視点です。
- ネガティブケイパビリティ:すぐに答えが出ない状況や不安を受け止め、耐える力
- ポジティブケイパビリティ:問題に対して素早く解決策を打つ力
ファミリーガバナンスの構築と運用は、この両者のバランスを意識しながら進めていく必要があります。
ファミリーガバナンスは「終わりなきプロセス」
ファミリービジネスの創業期には、事業と一族はほとんど一体です。
しかし世代が進むにつれ、
- 事業に関わらない一族株主が増える
- 所有と経営が分かれ始める
- 一族内で価値観も人生も多様化していく
という変化が避けられません。
このとき、一族と事業の関係性をどう新たにデザインするかが非常に重要になります。
「導入して終わり」ではなく、「進化し続ける関係性」
ファミリーガバナンスは、一族と事業が、お互いを支え合いながら、継続的に成長していく関係性をつくるための枠組みです。
ただし、ここで強調したいのは、ファミリーガバナンスは「導入して終わりの仕組み」ではなく、世代を超えて続いていくプロセスであるという点です。
世代を超えて、理念と資産をどう育てていくか
ファミリーガバナンスとは、兄弟・従妹と横に広がり、また親から子、孫へと世代を超えていく一族が一体性をもった一つの集団としてあり続けるために、対話を通じて自身たちの未来を考え続けるための仕組みと言い換えることができます。
制度と対話の"両輪"が鍵を握る
- 「我々はどこから来たのか」── 先代・先々代が築いてきた歴史や価値観
- 「我々は何者か」── 一族としてのアイデンティティや役割
- 「我々はどこへ行くのか」── これからの一族は、先人たちが残してくれた事業や資産を土台として、どう社会に貢献し、何を残すのか
これらの問いに、決まった正解はなく、すぐに答えは出ません。
だからこそ、対話を続けるためのルールと場を持つことが、ファミリービジネスの永続にとっての原動力となります。
まとめ
ファミリーガバナンスの構築は、法律・税務・財務・経営・組織・心理・コミュニケーションなど、多くの専門領域にまたがるテーマです。
一族だけで抱え込まず、経験豊富な専門家に相談することも、有力な選択肢の一つといえるでしょう。
ぜひ弊社にご相談ください。