「心」と「体」の健康セミナー 認知症を理解する -患者さんとともに歩む診療をめざして-

2025.11.24
健康

青山財産ネットワークスは、人生100年時代を幸せに過ごすために、「財産」面での支援に注力すると同時に、「心」と「体」の健康も大切であると考えています。

本年11月、「認知症を理解する」をテーマに行ったオンラインセミナーより、内容を一部抜粋してお届けします。今回お招きした講師は、順天堂大学医学部附属順天堂医院脳神経内科主任教授の波田野琢先生です。認知症の原因、認知症のうち最多の「アルツハイマー型認知症」、認知症を発症した人への対応、治療法、予防策などについてお話しいただきました。

波田野 琢Hatano Taku
順天堂大学医学部附属順天堂医院脳神経内科主任教授

順天堂大学医学部附属順天堂医院脳神経内科主任教授。パーキンソン病を中心に神経変性疾患の診療・研究に従事し、家族性パーキンソン病関連蛋白の機能解析や診断バイオマーカー研究で高く評価される。日本神経学会賞学術研究部門など多数受賞。「健康カプセル!ゲンキの時間」(TBS)、「チョイス@病気になったとき」、「きょうの健康」(いずれもNHK Eテレ)などテレビ出演歴も豊富で、わかりやすく最新医療を伝える姿勢に定評がある。神経内科専門医・指導医、認知症専門医。患者一人ひとりに寄り添い、信頼される診療と最先端研究を両立している。

波田野 琢

「認知症」について

認知症とは、次のように定義されています。

「後天的な脳の器質的な病変に生じる精神機能の衰退、崩壊のこと」

「後天的」とは、生まれつきではないこと。つまり、学習によって獲得したものができなくなります。「器質的な病変」とは、脳細胞が壊れてしまうことです。精神・認知が障害され、言葉・見当識・計算といった高次脳機能も障害されるのが認知症です。

●認知症の原因と症状

認知症を引き起こす原因は数多くあります。「神経変性疾患、脳血管障害をはじめ、内分泌・代謝性中毒性疾患、感染性疾患、腫瘍性疾患、外傷性疾患、脳液循環障害、中枢免疫疾患」など。希少な病気も含め、さまざまな病気が原因で脳の細胞が壊れることがわかっています。

その中でも最も多いのが、神経変性疾患である「アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、パーキンソン病」です。

※波田野先生作成セミナー資料から一部抜粋

認知症を理解するためには、以下の2点を理解し、考える必要があります。
・「病気が起こっている脳の場所と症状との関連」
・「病気が起こっている細胞内の異常と病気の関連」


脳は、感覚器(音、美味しさ、痛み、綺麗なものが見える)から情報を集め、やりたい(やるべき)ことを判断し、筋肉を使って表現します。脳の中心溝から前が「運動」を、後ろが「感覚」をつかさどります。アルツハイマー型認知症では、中心溝より後ろに病変が見られます。

特に、中心溝より後ろにある海馬の萎縮により、記憶障害を引き起こします。言われたことを覚えられなくなり、「時間」→「場所」→「人物」の順に、見当識障害が発生します。見当識とは、自分が置かれている状況を総合的に判断し、理解する能力です。頭頂葉の障害では、「自分がどこにいるのか分からない」といった状態を招きます。

●認知症を発症した人への対応

認知症を理解するキーワードの一つに「BPSD」(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)があります。日本語では、「認知症の行動、心理症状」と言います。これは、認知症に伴う精神的な障害を指します。不穏・興奮・焦燥・妄想・抑うつ・不安・怒りっぽいなどの精神的・行動的な症状に現れていきます。

物忘れや認知のズレが生じ、できていたことができなくなってしまうと、本人は不安を抱き、自信を喪失します。そこで周囲の人が「なぜ同じことを繰り返し聞くのか」「なぜ今までできていたのに、できないんだ」というような叱責・否定をすると、混乱・困惑し、BPSDへつながっていきます。

そのため、本人のペースに合わせて、話をよく聴き、否定したり自尊心を傷つけたりしないことが大切です。

●アルツハイマー型認知症の診断と治療

※波田野先生作成セミナー資料から一部抜粋

アルツハイマー型認知症のMRI画像を見ると、脳に記憶を保持する「海馬」が萎縮していく様子が見てとれます。このように神経細胞が壊れていく要因として、「アミロイドβタンパク質」と「タウタンパク質」という2つの特異的構造物が注目されています。アルツハイマー型認知症では、これらが神経細胞に溜まっていくという特徴が、最近では、PET検査で捉えられるようになってきました。

アルツハイマー型認知症の治療では、「コリンエステラーゼ阻害剤」という治療薬が症状を緩和させることが分かっています。脳内の神経伝達物質であるアセチルコリンの量を増やし、記憶障害などの症状の進行を遅らせてくれるものです。

また、もう一つの薬として「NMDA受容体阻害薬」があります。NMDA受容体とはグルタミン酸であり、過剰にあると神経細胞が壊れるため、それをブロックすることができる薬です。

これら2つの薬は、物忘れの症状を少し改善する効果があります。

さらに、最近では異なるアプローチの薬も出てきました。
「レカネマブ」と「ドナネマブ」です。

先ほど挙げた、神経細胞を壊す要因となる「アミロイドβタンパク質」。この元になる物質を、抗体を用いて取り除く薬が「レカネマブ」です。また、アミロイドβタンパク質を見つけて直接取り除く薬が「ドナネマブ」です。どちらも、病気の進行を半年ほど抑えられるようになってきました。

今後も技術開発が進み、認知症の進行を抑えるためのより良い薬が出てくると期待されています。

「パーキンソン病」について

認知症の兄弟のような病気である「パーキンソン病」についても、キーワードを挙げながらご紹介します。

●ドパミン神経とレビー小体

パーキンソン病は、脳内の「ドパミン神経細胞」が減少することで発症する病気です。
ドパミンは分解されると「メラニン色素」に変化します。メラニンは肌の色素として知られていますが、脳内にも蓄積されることがわかっており、加齢とともに脳内のメラニンも増加するため、年齢が上がるほどパーキンソン病のリスクが高まると考えられています。
また、神経細胞の中には「レビー小体」と呼ばれる異常な構造物が現れるのも特徴です。このレビー小体の主な構成成分が「αシヌクレイン」というタンパク質です。

ドパミンは「ハッピー神経伝達物質」とも呼ばれ、行動の動機付け(やる気)、報酬(嬉しさ)、運動の実行や自動化の学習に関連しています。ドパミンが多いと多幸感があり、運動にも積極的になりますが、少ないと運動が緩慢となり、不安、うつ、やる気が出ないといった状態になります。「手足がふるえる」「手足が硬くなる」「転びやすくなる」といった症状も現れます。

●遺伝と環境

パーキンソン病の発症の背景には、「遺伝」が関係していると言われています。家族に患者がいる場合、発症率は4.5倍になります。親兄弟よりも、いとこや叔父・叔母に患者がいる場合のほうが発症しやすい傾向もあります。ただし、遺伝だけでなく、「環境因子」も重要であると考えられています。例えば「農薬」「頭部外傷」「大気汚染」などもパーキンソン病に関係している可能性が指摘されています。

●アルファシヌクレイン

家族でパーキンソン病になる方の場合、「アルファシヌクレイン」というたんぱく質の異常が要因となることがわかっています。

アルファシヌクレインとはどのような働きをするのか、「キンカチョウ(ソングバード)」という鳥を例に説明しましょう。この鳥は父のくちばしを真似て、歌を覚えます。そのため、人の言葉の理解に関する実験にも使われているのですが、歌を覚える時期にアルファシヌクレインの発現が増えることが確認されています。そして大人になるとアルファシヌクレインが減少することから、アルファシヌクレインは学習に関係すると考えられているのです。

なお、パーキンソン病になりやすい人の特徴としては、次のパーソナリティが挙げられます。

・几帳面
・頑固
・道徳的に厳格
・柔軟性に欠ける
・新奇性なことをやりたがらない
・危険なことはしない

著名人では、永六輔さん、マイケル・J・フォックスさんがパーキンソン病を患っています。

●お腹と脳の関係

アルファシヌクレインが凝集し、神経細胞に広がっていくことがパーキンソン病の原因と考えられています。この蓄積は「腸」や鼻腔の後ろにある「嗅球」から、脳幹の延髄にある「迷走神経背側核」へ伝播し、さらに脳全体へ広がります。

ネズミの実験では、迷走神経を切断するとアルファシヌクレインが脳まで達しなかったという結果が得られています。また、胃潰瘍の手術で迷走神経を切断した人々はパーキンソン病の発症が抑えられたことがデンマークとスウェーデンで証明されており、「お腹と脳」が関係しているのではないかと考えられています。

日本語の慣用句にも、お腹と脳が関連しているものが少なくありません。

「腹の虫がおさまらない」→怒り
「腹の皮が捩れる」→笑い
「腸が煮えくり返る」→強い怒り
「腹を見られる」→本心が見られる
「腹を見透かす」→本心を読む
「抱腹絶倒」→大笑い
「腹を探る」→本心が何かを探る
「腹を読む」→気持ちや考えを推測している

パーキンソン病では「腸内細菌叢(腸内フローラ)」が関与しており、これを取り換えることで改善される可能性があることに着目し、順天堂大学では、腸内細菌叢移植が、治療になるかどうか取り組んでいます。

●認知症は生活習慣で予防できる

2012年時点の予測では、2025年には、認知症高齢者は約700万人に達するとされていました。しかし、2024年時点の認知症高齢者は443万人にとどまっており、予測よりも良い結果となっています。

認知症は、生活習慣によって予防できると考えられています。認知症を予防する生活因子として、以下の12因子が挙げられています。

・低学歴(early life)
・高血圧(midlife)
・聴覚障害
・喫煙
・肥満
・うつ病
・運動不足
・糖尿病
・社会的孤立
・過度の飲酒
・外傷性脳損傷
・大気汚染

これらの予防、改善を図るだけでも、認知症の全体的なリスクから40%程度抑制につながると考えられています。

また、脳は「プラスチックのように変化できる」とも言われます。物忘れをしないように脳トレをしたり、動きが良くなるようにしっかり治療をしたりすることで改善が可能です。治療だけでなく、脳が動くように運動をする、さらには心の面でも前向きに考えることが認知症予防に大切です。

【質疑応答】

事前にいただいたご質問について、波田野先生にご回答いただきました。

【予防法について】

Q1)認知症にならないために日常から気をつけられることや、予防法はありますでしょうか?
ちょっとした時間でできるおすすめの予防法もあれば(脳トレなど)教えてください。

A)糖尿病の場合、認知症になるリスクが高いので気を付けましょう。また、動脈硬化を起こす喫煙は控えましょう。引きこもらず、何にでも興味を持ち、いろいろなことを前向きに試してみてください。脳トレとしては、新鮮な酸素を吸って運動することをお勧めします。

Q2)認知症軽度の場合、進行を遅らせるために有効なトレーニングや生活習慣があれば教えてください。

A)週4回の強度の高い運動が、パーキンソン病の進行を抑制するというデータがあります。ただし、無理に行うともとに戻ってしまうため、自分に合っていて、楽しいと思えることを、面倒くさがらずに「継続する」ことが大切です。

【早期発見について】

Q3)認知症早期発見の為には、脳ドックなどを含めてどのような検査を受けるのが最も効果的でしょうか?お勧めの検査を教えてください。
また、いくつから、どのぐらいの頻度(1年に1回など)で受けた方がよいのでしょうか。

A)手軽に行えるのは「頭部MRI検査」です。65歳頃からを目安に年1回ペースで受けるとよいでしょう。病的な物忘れを周囲から指摘されるようになったら、アルツハイマー病が診断できる「アミロイドPET検査」もお勧めします。

Q4)どのような症状がでたら、認知症の検査を受けたほうがいいですか?

A)人との約束を忘れ、相手に言われても思い出せない。朝食を食べたことを忘れる。何かしようとしたことを忘れて他のことをしてしまい、最初の用事を最後まで思い出せない。などこれらは危険なサインと言えます。

Q5)認知症の最新の検査について教えてください。

A)アルツハイマー病の原因物質と考えられているアミロイドβタンパク質が脳内に溜まっているかどうかを調べる「PET検査」や「髄液検査」などがあります。新たな検査が徐々に開発されています。

【認知症とアルツハイマー、加齢の違い】

Q6)認知症と、加齢による物忘れや記憶力低下にはどのような違いがあるのでしょうか?

A)何かを忘れても考えれば思い出せるのは加齢による物忘れです。人との約束や会議の予定を忘れ、いつ約束したのかも覚えていないといった症状は認知症のリスクがあるため、検査をした方がよいでしょう。

Q7)働き盛りの30~50代の人が、日々ちょっとした物忘れが増えた際、若年性アルツハイマーの可能性はありますか。その場合、薬などで進行を止めることができるのでしょうか。

A)若年性アルツハイマーは遺伝性の病態なので、血縁者に既往歴があれば可能性があります。また、物忘れの症状は甲状腺や免疫の疾患、若年性脳梗塞などが原因であることも多いので、心配な場合は、一度検査してみることをお勧めします。

【認知症の方との接し方】

Q8)認知症と思える症状があるのに、日常生活は普通に送れているため、本人にその認識がなく、受診も拒否するといった状況の時、どう対処すればいいでしょうか?

A)本人も「こんなことができないなんて」と自身の認識とズレが生じ、混乱していることが多く、周囲から指摘されると否定されがちです。受け入れる姿勢を見せると、軟化することがあります。保健所や地域包括センターに相談し、第三者から話してもらうのも一つの方法です。

Q9)長期入院などによって環境が変わり、周囲とのコミュニケーションが不足して認知症が進行すると聞いたことがあります。コミュニケーションのコツや、進行を防ぐ方法があれば教えてください。

A)環境の変化により、炎症反応が上がることがあるため、長期入院はなるべく避け、デイサービスなど短時間利用できる施設で、さまざまな人と接することをお勧めします。認知症の方が、孫の相手をしているときに生き生きして記憶が戻る姿をよく目にします。若い人とのコミュニケーションをとる機会を設けるのもよいでしょう。

Q10)認知症の人との接し方で注意すべきことを教えてください。

A)「受容する」姿勢が大切です。何を言いたいのか、どうしたいのかを読み解いてあげるよう意識してください。怒り出したときなどは、お茶をいれたり、話題を変えたりして、ワンクッション置く工夫をしてみましょう。

Q11)両親が認知症になりやすい年齢に差し掛かっていますが、事前にやっておいた方がいいことはありますか。

A)コミュニケーションの頻度を高めることが大切です。会って話すのが望ましいですが、スマホの会話でも、メールの誤字脱字、返信が億劫になっていないかなどの変化に注意してください。ビデオ通話を利用するのも有効です。地域とのつながりを保てているかどうかも見てあげてください。介護や地域包括センターに関する知識も持っておくとよいでしょう。

Q12)認知症患者の介護現場の実態や、先生が患者さんと向き合う中で印象に残っているエピソードや、感じられたことなどがあれば教えてください。

A)100歳を超えて物忘れの症状が出てきた女性の息子さんが、自身の認知症予防を兼ねて2人でボードゲームで楽しく遊んでいたことが印象に残っています。親子が互いにリスペクトし合う関係性なら介護もうまくいくのだと感じました。

【認知症について】

Q13)認知症が治った人はいましたか?いた場合、どのような方法で治ったか教えてほしいです。

A)治せる認知症もあります。ビタミン不足が原因の認知症がビタミンの補給で改善したことがあります。脳に血液が溜まったことによる認知症が、外科手術で治癒したケースもあります。

Q14)親や親族に認知症の方がいる場合、遺伝的な影響で発症する傾向にある体質などあるのでしょうか?

A)「リスク遺伝子」と呼ばれるものにより、親が認知症であれば子どもも認知症になることがあります。ただ、遺伝子による発症は、若年性アルツハイマーに関係するケースが多いと思います。遺伝子タイプは、高額ではありますが調べることも可能です。

【その他】

Q15)年老いてから処方されている薬の中で、認知症を進行させてしまうものには、どの様なものがあるでしょうか?「この様なものはなるべく控えたほうがよい」というものがあれば教えて頂けると幸いです。

A)薬と病気の関係についての近年の解析では、「抗コリン剤」が認知症のリスクを高めるという結果が出ています。頻尿予防やパーキンソン病の治療に使われる薬です。頻尿予防薬を服用していて物忘れの不安が出てきた場合は医師に相談してもよいでしょう。

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