2021.10.29
健康
「心」と「体」の健康セミナー
人生100年時代を幸福に過ごすために、今大事なこと
~認知症予防についての秘訣~
青山財産ネットワークスは、創業以来、総合財産コンサルティングの提供を通じ、主に「財産」面での支援に注力してまいりました。
一方、人生100年時代を幸せに過ごすためには、同時に健康な「心」と「体」も大切であると考えており、
専門家をお招きしてセミナーを開催しています。

本年4月には、「男性の更年期から若さと健康を保つ秘訣」をテーマにオンラインセミナーを実施。
今回は、順天堂大学医学部神経学教授・服部信孝先生をゲスト講師にお招きし、「認知症予防についての秘訣」についてご講演いただきました。

順天堂附属病院・脳神経内科は、米国のニューズウィーク誌(2020年11月20日号)の「世界のベスト診療科ランキング」において、世界の脳神経内科として10位、日本で1位にランクされた実績があります。

オンラインセミナーでは脳神経にまつわるさまざまな疾患を学術的に解説いただきましたが、ここでは特に皆さんの関心が高い「認知症の兆候の見つけ方」「認知症の予防法」についてのアドバイスを抜粋してお届けします。

服部 信孝
順天堂大学大学院医学研究科神経学 教授
順天堂大学医学部神経学講座 教授
(医学部長・医学研究科長 併任)
1995年、順天堂大学医学部神経学講座助手。1999年、同講師。2002年、助教授。2006年、大学院医学研究科神経学教授。2008年、順天堂大学大学院医学研究科老人性疾患病態・治療研究センター副センター長(併任)。2019年より医学部長・医学研究科長(併任)。他施設の客員教授等も多数務め、2020年10月より国立研究開発法人理化学研究所・脳神経科学研究センター・神経変性疾患連携研究チームリーダーに就任。財団法人長寿科学振興財団理事長奨励賞、ベルツ賞、日本神経学会賞、文部科学大臣賞、日本神経学会楢林賞など、受賞多数。

「これは認知症なのか?」――日常の言動から判断する方法

人生100年時代と言われる中、長生きのリスクとして皆さんが不安を抱いている「認知症」。
認知症の定義は次のとおりです。

「一旦正常に発達した知的機能が持続的に低下し、複数の認知障害があるために、社会生活に支障をきたすようになった状態」

2018年時点で、65歳以上の高齢者の約7人に1人が認知症を発症しています。
2025年には、65歳以上の5人に1人が認知症になり、730万人に増えると予想されています。
全体的では64.2%、女性が71.8%、男性が42.4%と、女性の発症が多い傾向にあります。

では、どんな兆候が表れたら認知症が疑われるのでしょうか。

認知症では初期症状として「記憶障害」、つまり「物忘れ」が出現します。
認知症による物忘れと、「加齢」による物忘れの違いは次のとおりです。

<認知症による物忘れ>
・体験全体を忘れる
・新しい出来事を記憶できない
・ヒントを与えられても思い出せない
・時間や場所などの見当がつかない
・日常生活に支障がある
・物忘れに対して自覚がない

<加齢による物忘れ>
・体験の一部分を忘れる
・ヒントを与えられると思い出せる
・時間や場所など見当がつく
・日常生活に支障はない
・物忘れに対して自覚がある

また、その人が日常使っている「小銭入れ」から認知症の兆候を察知できることもあります。
小銭入れが大きく膨れていたら、認知症が始まっているかもしれません。これは「計算ができなくなっている」表れです。
通常なら、買い物をするとき、なるべくお釣りが出ないように計算して支払うものですが、それができなくなっている。少額の買い物でもお札を使いがちになり、お釣りで小銭が溜まっていくというわけです。

一方、記憶力は落ちていない、計算もできるけれど、次のような兆候が表れることがあります。

・人柄が変わったようになる
・場違いな行動をとる

例えば、穏和だった人が怒りっぽくなったり、暴力的になったりする。
お葬式で大笑いするなど、その場の状況に合わせた対応ができない。
万引きを悪いことと認識せず、欲しいと思ったものをとってしまう。

こうした行動は、「前頭側頭型認知症」の早期である可能性があります。
認知症の50%以上が、皆さんもよく耳にする「アルツハイマー型認知症」ですが、10%未満の「前頭側頭型認知症」は、記憶に問題はなくても、人格の変容が見られるのが特徴です。

早期発見が重要。「健脳ドック」の重要性が増す

今、注目されているのが「MCI(Mild Cognitive Impairment)」。これは「軽度認知障害」を指し、認知症の一歩手前の状態です。
物忘れの記憶障害が出ますが、まだ軽く、自立した生活ができる。症状が軽いからこそ、家族や自分自身でさえ見過ごしてしまいます。

<MCIの特徴>
・主観的な物忘れの訴え
・年齢に比し記憶力が低下
・日常生活動作は正常
・全般的な認知機能は正常
・認知症は認めない

MCIの段階で適切な治療ができれば、認知症を遅らせる、また、ある部分においては元に戻るというデータもあります。
早期発見のために、今後は「健脳ドック」の活用が重要になってくるでしょう。
従来の「脳ドック」は、脳血管障害に対してのリスクスクリーニング。対して「健脳ドック」は認知症予備軍を診断することで認知症発症を遅らせる、「予防」を目的としたものです。
順天堂大学でも、「健脳ドック」の普及に向けて取り組んでいく動きがあります。

MCIを改善し、認知症を予防する方法

MCI改善、認知症予防のため、日常生活でどんなことを心がければいいのでしょうか。

●運動

アルツハイマー病は年齢とともに有病率が上昇しますが、中年期の運動はリスクを60%減らします。なお、40代で肥満だと、発症リスクは2.8倍に上昇します。

運動の中でも手軽なのが「ウォーキング」です。
ウォーキングによって得られる健康効果の最大値は「1日8000歩」。8000歩を目指して歩く中で、そのうち20分間は「早歩き」をするのが効果的と言われます。距離にして5kmを目指しましょう。
なお、8000歩以上歩いても効果はあまり変わらないと言われています。

さらに効果を高めるなら、「デュアルタスク」を意識してみてください。
デュアルタスクとは、2つのことを同時に行う動作です。例えば、「頭で計算しながらウォーキングをする」「しりとりしながら足踏みする」など。

これらを踏まえると、「ゴルフ」もお勧めです。
ゴルフなら、運動の量・強さが過度にならず、カートを使わずに歩けば、歩数をかせぐことができます。
距離感を測ったり、何打打ったかをカウントしたりすることは、「デュアルタスク」にもなります。
ゴルフは、認知症予防には理にかなったスポーツと言えるでしょう。

●食事

食生活では、次の食品を積極的に摂ることをお勧めします。

・野菜、果物(ビタミンC・ビタミンE・βカロチン)
・魚(DHA・EPA)
・赤ワイン(ポリフェノール)

市販されている、DHAとEPAをミックスしたサプリメントなどを利用してもいいでしょう(私も摂取しています)。

●認知トレーニング

スマホのアプリケーションには、脳のトレーニングができるものが数多く出ています。
そうしたアプリを利用するのも効果が期待できます。

●生活習慣病の改善

認知症になりやすいのは、動脈硬化の危険因子を持っている人。例えば、「高血圧」「糖尿病」「高コレステロール血症」「喫煙習慣」「心房細動」などがある人です。

収縮期血圧が上昇すると認知機能は低下します。「高血圧」の治療に取り組めば、認知症の発症率も55%減少させられます。糖尿病は、認知症になるリスクが2.2倍と言われます。
「タバコ」も禁忌。肺がんや動脈硬化になりやすいリスクも考えると、禁煙が望ましいでしょう。

●勉強

アルツハイマー病になりやすい人の特徴の一つに「学歴が短い人」が挙げられます。
これは「高卒だから学歴が短い」といったことではなく、「長く勉強を続ける」ことが重要です。
新聞やニュースなどで、「情報をキャッチする」ことも心がけたいものです。

●社会とのつながり

社会的なつながりのある人と比較して、社会的つながりがない人は、認知機能低下のリスク大。
仕事をされている方であれば、「生涯現役」という考え方がいいでしょう。

●楽観的であること

冒頭でもお話ししたとおり、日常生活に支障とならない物忘れは加齢によるものです。
しかし、「物忘れが激しくなった」→「認知症になってしまった」と捉えて落ち込むと、メンタルに支障をきたし、うつ病を招きかねません。
楽観的でありつつ、時々意識して、物忘れのレベルをチェックしてみるくらいの姿勢がいいですね。

●夫婦円満であること

認知症予防には、「癒し」も大切です。夫婦が仲良く、円満に過ごすことも、重要な認知症予防戦略の一つなのです。

認知症薬の開発も進む

認知症を治療しないでおくと進行を止めるのは難しいと言えます。
しかし、認知症薬を使うことで改善する、あるいは進行が緩やかになります。
現在、「ドネベジル」「ガランタミン」「リバスチグミン」「メマンチン」といった治療薬があります。

昨今注目されているのが、「抗体療法」の確立です。
米バイオジェン社とエーザイでは、アルツハイマー病の治療薬「アデュカヌマブ」を共同開発。
アミロイド抗体療法として期待が寄せられています。

なお、薬物治療においては、次のような「効果」と「副作用」があることを認識しておきましょう。

<薬物治療の効果>
・意欲の向上
・会話量が増えた
・意思表示するようになった。
・表情が豊かになった
・家事への協力

<薬物治療の副作用>
・余計なことをするようになった
・口答えするようになった
・デイケアを拒否するようになった
・喜怒哀楽が激しくなった
・失敗が増えた

なお、認知症薬を服用するなら、「休薬しない」ことが大切です。
認知症の薬を飲み始めて症状が緩和・改善されたとしても、例えば1週間休薬してしまうと、1週間前の元のレベルに戻らなくなる……というデータがあります。
薬を服用することになった場合は、きっちりと飲み続けてください。