2022.10.06
事業承継
「後継者がおらず、M&Aをしようにも買い手が付かない……」
そんな窮地を打開する「縮小型事業承継」
近年、多くの企業が後継者問題に悩んでいます。
帝国データバンクが全国の企業を対象に実施した「後継者不在率」動向調査(2021年)によると、国内企業のおよそ3分の2にあたる61.5%が後継者不在の状態にあるようです。

後継者が見つからない場合、廃業を避けるため、「M&A」による事業承継を目指す企業も多く見られます。
確かにM&Aは有力な手段ですが、必ず成功するとは限りません。なかなか買い手が見つからず、頓挫してしまうこともあります。

事業承継の道を模索し続けるか、廃業に踏み切るか。早期決断を迫られる企業も増えてきます。
コロナ禍で売上が減少した企業に実質無利子・無担保で融資する「ゼロゼロ融資」。この利用により急場をしのげた企業もあるものの、利子免除は3年の期限付きであるため、早ければ2023年3月から利子の支払いが発生することになります。

そのうえ、ウクライナ情勢や円安の影響により、業績を十分に回復できないまま、今後も厳しい経営環境にさらされる企業は多いと見られます。倒産を回避し、何らかの形で事業を継続できるよう、早期に方向性を決断する必要があるといえるでしょう。




事業承継を検討する際の5つの視点

ご家族・親族も関わって経営をされている中小企業が事業承継に臨む場合、私たちは次の5つの視点を大切にコンサルティングを行っています。

【1】円滑な経営承継
・オーナーの意思が反映された経営承継
・承継後も会社が成長、発展していく環境が整っている

【2】円滑な財産承継
・オーナーの意見が反映された財産承継
・家族間で争うことなく、合意された財産の承継が行われる

【3】納税資金の確保
それぞれの相続人が円滑に納税できる

【4】財産の保全と運用
資産運用をし、資産形成を行う。経営承継後・相続発生後も経済的に安心して生活ができるようにする

【5】まさかへの備え
突然の相続や認知症の発症、災害、経済環境の変化が起こっても、会社・家族が安心して暮らせる環境を整えておく

M&Aがうまくいかない場合の新たな手法「縮小型事業承継」


縮小型事業承継という選択


かつての事業承継は、ご子息が家業を継ぐ「親族承継」が中心でした。しかし子ども自身が選択した道を歩むことが多くなった現在、第三者の「M&A」による承継が増えています。
とはいえ、業績が赤字で今後も回復・成長の見込みが薄ければ、経営を買って出る人は現れません。結果、「廃業」を選択せざるを得なくなります。

しかし、私たちから見ていて、赤字経営の企業でも「不要な部分を削れば、買い手が現れるのに」と思うケースが多々あり、通常のM&Aと完全廃業の間にある、別の道を見つけ出すお手伝いをしたいと考えました。

そこで編み出したのが、親族承継・M&A・廃業ではない第4の道、「縮小型事業承継」(商標出願中)のメソッドです。
これは、世の中の需要やシェアの減少に応じて資産・商品数・店舗数などを縮小・分割することによって、「引き継ぎやすい」状態を作るものです。
「引き継ぎやすい」とは、M&Aで買い手が付きやすくなること、親族や従業員が承継しやすくなることなどを含んでいます。

私たちは「縮小型事業承継」メソッドの実践により、これまで多くの中小企業の「出口」を見出してきました。
元経営者の方々には承継後の生活に必要な資金の確保を、従業員の皆さんには雇用の継続を、地域には必要な物資・サービスの提供の継続を実現しています。

近年、M&A仲介会社の数が増えていますが、「赤字になっている企業の案件は最初から受け付けない」という方針の企業も少なくありません。相談に応じたとしても、買い手を見つけられず断念してしまうケースも多々見られます。

私たちは、M&Aを手がける企業・約100社と連携しており、「出口が見つからない」状況にある企業に関するご相談をお受けしています。
これまで事業承継に関し、さまざまなフェーズの企業のコンサルティングを手がけてきた実績から、「青山財産ネットワークスに相談すれば、何らかの解決策が見つかるのではないか」というご期待をいただいています。

そうしたニーズにお応えし、「縮小型事業承継」という選択肢も含め、1社1社の状況に応じて最適な事業承継の形をご提案します。

 

後継者不在、M&Aもうまくいかないときに_必ず出口が見つかる「縮小型事業承継と幸せな廃業」

事業を縮小してM&Aに成功した事例

縮小型事業承継の成功例をご紹介しましょう。
東京で、資材の卸売業として70年超の業歴を持つA社です。ご相談いただいたのは3代目社長(50代)。
30代で父の後を継いだ頃には従業員数60名規模で3支店を運営していたそうですが、赤字幅が大きくなっていたため人員整理、支店閉鎖などで従業員15名規模まで縮小していました。

近年は、同業他社との競争激化などで売上が激減。赤字計上で、本業では借入金の返済原資を捻出できておらず、保有するビルの賃貸収入で会社を存続させている状況でした。
しかし保有ビルは老朽化が進んでおり、大規模修繕費用が必要に。社長は限界を感じ、M&Aを検討したのです。

買い手候補となる企業と直接交渉したり、金融機関に相談したりしたそうですが、なかなか買い手が付かず。廃業も考え始めていた頃、青山財産ネットワークスと新生銀行が共同で運営する事業承継ファンドが名乗りを上げました。
事業承継ファンドとは、身近に後継者がいない場合、企業オーナーから全株式を買い取り、企業価値を高めて第三者に売却する手法や運営体のことです。

A社の場合、社長が親族から株式を買い集め、全株式をファンドに売却。事業承継ファンドが数カ月かけて、不採算事業部を閉じるなど事業を整理し、改めてM&Aをするべく買い手を募りました。
その結果、A社と同様の資材を扱っている関西の企業への事業譲渡が成立しました。その企業は、東京進出のきっかけを探っており、「赤字ではあるが新たに支店を作るよりコストが大幅に抑えられる」「ある程度の従業員を確保できる」「昔からの優良顧客がついている」といった点で、A社のM&Aにメリットがあると判断したのです。

これにより、A社の従業員の雇用は守られ、買収した関西企業の東京支店として営業を続けています。
なお、収益ビルは売却して借金を返済しました。

社長は「肩の荷が下りた」「長年のストレスから解放された」と安堵されました。
今後の生活に十分な売却金を手にすることができ、会社員だった時期もあるため厚生年金も支給され、「老後の生活は心配していない」とのこと。読書やスポーツを楽しむ日々を過ごされているそうです。

「廃業」も成功の形の一つ

赤字が続き、廃業が望ましいと思われる企業でも、経営者がその決断を先延ばしするのはよくあることです。
「ここを乗り越えさえすれば、売上が回復するかもしれない」「もう少し様子を見てからでもいいのでは」「従業員をリストラすればしのげるかもしれない」といったように考えることから、廃業に踏み切れない経営者が多いのが実情です。
しかし冷静に考えれば、時間が経てば経つほど状況が悪化していくことが、財務諸表を見れば理解できます。

私たちは先ほどお話しした「縮小型事業承継」のメソッドを用い、事業・組織を縮小したうえでM&Aの検討を行います。しかしそれでも買い手が付かなければ、「売却できるものは売却して廃業」というシナリオを組むこともあります。この場合、従業員には再就職支援プログラムを用意します。

ファンドに売却し、経営権を移転したのちに廃業する方法があります。
この場合、ファンドは「あの会社ならこの会社の顧客がほしいだろう」「あの会社ならこの会社の設備を使いたいだろう」などと資産を切り分けていくため、売却されたものは他企業で再利用されますし、再就職した従業員はスキルを活かすことができます。

こうした形であれば、幸せな廃業=前向きな計画廃業といえるでしょう。
経営者は廃業時に手にした一時金の運用により、第二の人生を有意義に過ごすことができます。
廃業を「経営の失敗」と捉えるのではなく「正しい経営判断」「成功の一つの形」とプラスに捉え、選択肢に入れてみてはいかがでしょうか。 

島根 伸治(公認会計士)
取締役執行役員 事業承継ファンド事業部長

大手監査法人、メーカーを経て2001年当社グループに入社。
多くの企業オーナー様と会社の将来について話し、長きにわたり財務・資本政策や事業承継のご支援を実施。経済ショックや自然災害なども多発する今の成熟社会においては、必ずしも「成長」でなく、「縮小均衡」させて承継を図ることも有用と実感している。他社様と「縮小型」の事業承継ファンドを運営し、株主となってご支援する例もある。

※役職名、内容等は取材時のものです。


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