2022.11.21
健康
「心」と「体」の健康セミナー
大人のがん教育
~わずかな知識で運命が変わる。がんについて知っておいてほしいこと~
 
青山財産ネットワークスは、創業以来、総合財産コンサルティングの提供を通じ、主に「財産」面での支援に注力してまいりました。
一方、人生100年時代を幸せに過ごすためには、同時に健康な「心」と「体」も大切であると考えており、 専門家をお招きしてセミナーを開催しています。

本年11月、「大人のがん教育」をテーマに行ったオンラインセミナーより、内容を一部抜粋してお届けします。
今回お招きした講師は、東大病院・総合放射線腫瘍学講座の特任教授、中川恵一先生です。
がんにまつわる最近の傾向、がんのリスクを軽減するためのポイントなどを解説いただきました。


中川 恵一
東京大学大学院医学系研究科 総合放射線腫瘍学講座 特任教授

昭和60年、東京大学医学部医学科卒業後、東京大学医学部放射線医学教室入局。
スイス Paul Sherrer Institute へ客員研究員として留学後、東京大学医学部放射線医学教室助手、専任講師、准教授・放射線治療部門長を歴任。令和3年度より、現職。この間、平成15年から26年まで、東京大学医学部附属病院緩和ケア診療部長を兼任。
患者/一般向けの啓蒙活動にも力を入れており、福島第一原発後は、飯舘村など福島支援も積極的に行っている。日経新聞で「がん社会を診る」を毎週連載中。

日本は「がん対策後進国」

実は、先進国の中で、がんによる死亡率が増えている国は日本しかありません。アメリカでは1990年代にピークを迎え、以降は減少しているのに対し、日本は増加を続けています。現在、日本のがん死亡率はアメリカの2倍に達しています。
その原因は、日本におけるがん対策に問題があります。診断・治療の問題ではありません。簡単に言えば、国民の皆さんのがんに対する知識・リテラシーが不足しているのです。

欧米では、がんについて学校で学びます。日本では学校教育が遅れ、最近ようやく中学校と高校の学習指導要領の中にがん教育が明記されました。中学校では2021年4月から、高校では2022年4月から、がんを理解するための授業が行われているのです。保健体育の教科書が一新され、受けるべき検診などが記載されています。

学生時代から正しい教育を受ければ、がん罹患率・死亡率はいずれ改善されていくでしょう。
現時点での問題は、大人に対するがん教育です。がんとは、少しの知識の有無によって運命が変わる病気です。
ここから、「がん」について、皆さんがあまり認識されていない事実をお伝えしていきます。

まずは、日本における「がん」の実情を、さまざまなデータで見てみましょう。

●日本の男性のほぼ3分の2(65%)、女性の2人に1人(50.2%)が生涯のうち何らかのがんに罹患する

●毎年がんと診断される約100万人のうち、約3割は現役で働いている世代(64歳まで)

●現役世代の病死原因は9割ががん

●がん死亡のピークは、男性は60代後半、女性は60代前半

●現在、年間約100万人が新たにがんと診断され、38万人ががんにより命を落としている。つまり約6割は治っている

●早期がんであれば、9割以上が完治(※大腸がんのステージ1の場合、5年生存率は98%)

<中川先生作成セミナー資料から一部抜粋>


さて、がん罹患は男性に多いのですが、50代半ばまでは女性が多く、男性は50代半ばから急激に増加します。これは女性特有の「乳がん」「子宮頸がん」が若い世代に多いためです。50代半ばから増える男性のがんは「遺伝子の老化」によるものであり、それは喫煙・飲酒などの生活習慣が招いています。

日本の男性の発がん原因のうち24%が「タバコ」、8%が「お酒」です。
こうした生活習慣を見直すことで、がんリスクを軽減できます。しかし、タバコ・お酒についてのリスクはあまり認識されていないこともあります。

タバコは「肺がん」だけでなく、ほぼ全てのがんを増やす

タバコのパッケージには、健康面への影響についての警告文が記載されています。最近は文言が変わったようですが、最近までは「喫煙は肺がんの原因の一つとなる」と書かれていました。
しかし、実は喫煙が影響を及ぼすのは肺がんだけではありません。実はほとんど全てのがんを増やすのです。
非喫煙者と比較した喫煙者のがんによる死亡の危険性(男性)は、肺がん4.5倍、喉頭がん32.5倍が突出していますが、全てのがんの平均は1.65倍となっています。

タバコの煙には約70種類の発がん物質が含まれており、喉や肺のがんを増やすばかりか、血液中に溶け込んで全身にがんを増やすのです。
そして吸った成分のうち3分の1ほどが吐く息へ。したがって周囲の方にも影響を与えます。
「受動喫煙」と言われるものですが、これは副流煙がない加熱式タバコでも同様です。
煙は出なくても、喫煙者の吐く息には発がん物質が含まれているのです。

2017年、日本を視察したWHO(世界保健機関)の専門家は「日本の受動喫煙対策は前世紀並みに遅れている」と指摘しました。
加熱式タバコであっても、従来のタバコと同様の対策をする必要があるのです。

お酒を飲んで「顔が赤くなる」のは危険信号

飲酒によってリスクが高まるがんの部位は「口腔」「咽頭」「喉頭」「食道」「大腸(男性)」「乳房」など。また、「肝臓」「大腸(女性)」も、おそらく高まるとされています。

「健康のためにお酒は控えめにしたほうがいい」ということは、皆さんもご承知のとおりでしょう。
では、どれくらい控えればよいのか。実は、「飲まない」のが一番よいのです。
公衆衛生分野の先生方のお酒に対する見解は、最近どんどん厳しくなっています。以前は「日本酒1合程度までならよし」といったような見解もありましたが、今では「『百薬の長』は存在せず」という論調になっています。

とりわけ、お酒を飲むと顔が赤くなるタイプの人は要注意です。アルコール飲料で顔が赤くなる現象は英語で「アジアン・フラッシュ」と呼ばれます。これは東洋人の中でも、日本列島・朝鮮半島の人に起こるもの。
アルコール類の摂取後、体内でエタノールが分解され、アセトアルデヒドという発がん物質が生成されます。アセトアルデヒドが分解できず、体内に溜まると血管が開いて顔が赤くなるのです。
つまり、顔が赤くなっているのは、発がん物質が溜まっているサインであると知っておきましょう。

細菌・ウイルス感染にも注意

細菌・ウイルス感染対策も非常に重要です。
胃がんの原因の98%ぐらいは、6歳ぐらいまでの「ピロリ菌感染」です。人類のピロリ菌の感染率は、もともと100%であり、今の80代で約8割、60代で約5割、50代で約4割、20代~30代で1割。冷蔵庫の普及に伴ってピロリ菌が減ったため、今の子どもたちは5%程度です。
ピロリ菌は検査を受けることで有無を確認し、除菌によって胃がん発症リスクを軽減できます。

また、肝臓がんの原因の7~8割がC型・B型の肝炎ウイルスです。これらには抗ウイルス薬が有効です。
子宮頸がんは、原因のほぼ100%が性交渉によるHPV感染。こちらはワクチンを接種しておくとリスクは1割に軽減されます。

コロナ禍ががんリスクを高める――「座りすぎ」「検診延期」はNG

コロナ禍の影響も、がんの発症・死亡率増加につながります。
注意すべきは「座りすぎ」。実は長時間座ったままでいると、がんによる死亡リスクが1.82倍に高まるという調査データがあります。座りすぎは、喫煙以上にリスクが高いのです。

コロナ禍では外出の自粛、テレワークなどで座っている時間が長くなった方も多いかと思います。
ぜひ意識して身体を動かしてください。
また、どうしても座っていなければならない場合、「貧乏ゆすり」のように身体を左右に揺らすことをおすすめします。
また、身体を動かさなくなり「コロナ太り」も増えています。さらに糖尿病を発症するとがん全体のリスクは2割増えますので注意が必要です。

また、コロナ禍ではがん検診を自粛する人が増加。コロナ禍以前と比較し、2020年はがん検診を受けた人が3割近く減少しました。2021年になっても1割減のままです。
結果、早期発見が遅れ、検診では進行がんが見つかるケースが増えています。
このままでは、がん死亡者数は増加するでしょう。厚生労働省では「がん検診は不要不急の外出ではない」と、早期検診を促しています。

約6割は「運」。早期発見のため、1~2年に一度は検診を

生活習慣の見直しによって防げるがんは、男性で43%、女性で25%。男女合わせると36%です。
逆に言えば、リスクが少ない生活を心がけたとしても、6割近いリスクが残っているわけです。それは一言で言えば「運」に左右されます。
モノには必ず「経年劣化」が起こるように、人の遺伝子も刻々と傷んでいきます。たまたま細胞の増殖に関連する遺伝子――つまり、がんに関連する遺伝子が傷つくと、がんができるのです。どの遺伝子が傷つくかはランダムであるため、運の要素が大きいといえます。

だからこそ、生活習慣を整えるだけでなく、がんになった場合に備える必要があります。それが「早期発見」です。
たった一つの癌細胞が、10年20年かけて1センチのサイズになる。がんの専門医もようやくそこで発見できます。
1センチから2センチの段階では、症状が出ることはありません。1センチが2センチになる期間は、多くのがんの場合約2年、早いもので1年。
したがって、1年あるいは2年に一度は検査をすることをおすすめします。

<中川先生作成セミナー資料から一部抜粋>



では、どんな検査を受けるべきか。基本は、市町村が実施している「住民検診」です。
高額な人間ドックもありますが、まずは住民検診をぜひ受けていただきたいと思います。

がんを早期に発見できれば、治療の負担も抑えられます。
近年増えている「放射線治療」は、身体にメスを入れることなくがんの治療ができます。身体への負担が少ないだけでなく、1回の治療時間も短い。入院の必要はなく、通院治療が可能性であるため、仕事を続けることもできます。
例えば、東大病院の場合、放射線照射の回数は、早期の肺がんで4回、前立腺がんでは進行がんであっても5回です。
また、放射線治療は高額というイメージを持たれていますが、99%健康保険でまかなえますし、高額療養費制度も利用できます。

<参考>
アニメで学べるがんの放射線治療|JASTRO 日本放射線腫瘍学会
https://www.jastro.or.jp/animation/

「生活習慣を整える」「検診によって早期発見する」、これによりがんのリスクを軽減することが可能になります。