2023.03.24
財産承継
認知症の相続人がいるとどうなる?問題点と対策をご紹介
厚生労働省の発表によると、2025年時点で65歳以上の高齢者の3人に1人は認知症及びその予備軍になると予想されています。 こうした状況をふまえ、私たちの親族まで含めた人生設計、また相続対策を考える際には、認知症(*本記事では、症状が進行して、意思能力が喪失している状態を指します)のリスクを念頭に置く必要があるでしょう。
厚生労働省老健局|認知症施策の総合的な推進について(参考資料)

本記事では、財産を承継する“相続人”の中に認知症の方がいる場合、どのような問題が生じるのか。そして、相続が始まる前に行っておきたい“相続対策”についてご紹介します。
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認知症の相続人がいる場合の問題点

認知症の相続人

相続が発生した際には、 数々の手続きが必要です。しかし、認知症になって判断力が落ちている方では、これらの行為を独力で行うのは困難です。また、故人の財産をどのように分割するかを相続人全員で話し合う“遺産分割協議”においても、認知症の相続人がいると通常通りの進行ができません。そのため、「認知症の相続人がいるため遺産分割ができない」というお悩みを持つ方が多くいらっしゃいます。

認知症の相続人がいると遺産分割協議ができない?

遺産分割協議は遺言書がない場合や遺言と異なる遺産分割を行う場合に執り行われます。協議の結果は、”相続人全員の合意”のもと「遺産分割協議書」として残され、以降、効力を発揮します。ところが、認知症の方は正常な判断が困難なことから、協議結果へ“合意”したと法的に認められない場合があります。そのため、認知症の相続人がいると遺産分割協議の内容が認められない場合があるのです。これが、「認知症の相続人がいるため遺産分割ができない」と悩まれる理由でしょう。

認知症の相続人を除いての協議は無効とみなされる

認知症の相続人本人から合意が得られないのであれば、「本人の代わりに親族が合意の署名をしよう」「認知症の相続人を省いて話し合いをしよう」などと考える方がいるかもしれません。ただし、こうして作成された遺産分割協議書は無効と判断されるばかりか、場合によっては実行者が罪に問われるケースもございます。

故人に借金がある場合はさらに要注意!認知症の方は相続放棄もできない

故人の財産は、必ずしもプラス(金銭や不動産)とは限りません。場合によっては、マイナスの財産(借金やローン)が発覚することもあり得ます。このような場合、相続人は“相続放棄”の手続きをすることで、借金の返済義務を回避することが可能です。

相続放棄とは、故人の財産について一切の相続権を放棄する法律行為です。法律行為であるため、認知症の方単独では手続きができません。 

すでに認知症と診断された相続人がいる場合の対応

特別代理人



相続人のなかに認知症の方がいる場合、どのような対応が考えられるのでしょうか。一般的な対応策を2つご紹介します。

成年後見人(法定後見人)を立てる

認知症の相続人がいる状況で遺産分割協議を進める方法として、“成年後見人”を立てるという手があります。成年後見制度とは、認知症や加齢、障害により判断力が低下した方に代わり、財産管理や身辺上の保護といった法律行為を支援する“後見人”をつける制度です。

後見制度には“法定後見“と”任意後見“の2種類があります。 法定後見人には親族が選任される場合もありますが、遺産分割を目的とした申し立ての場合、弁護士や司法書士等の専門職の方が選任されるケースがほとんどです。

成年後見人を立てることで遺産分割協議は進められますが、良い面ばかりではありません。例えば、成年後見人は一度選任されると、原則、解任はありません。専門家が後見人についた場合、継続的に報酬を支払う必要が生じます。報酬は被後見人の保有する財産額によって変動しますが、月額2~6万円が相場です。

特別代理人を立てる

任意後見制度などによって、親族の方が後見人についているケースもあります。しかし、親族の後見人が認知症の相続人(被後見人)と共に推定相続人に含まれる場合、認知症の方の代理として遺産分割協議に参加することはできません。なぜなら、遺産分割協議という場において、後見人が自身の利益を確保するため、被後見人の権利を侵害しかねないためです。

このような被後見人(未成年や高齢者など)と後見人の利益が相反するケースでは、“特別代理人”を選任することを家庭裁判所に申し立てる必要があります。特別代理人は、“裁判所の認めた行為に関してのみ代理権を行使できる”という点で後見人と異なります。例えば遺産分割協議であれば、認知症の相続人の代わりに協議に参加し、協議が終わればその任は解かれます。

直前になって相続で焦らないためには?

ここまでは、すでに相続が始まっているケースの対応策をご紹介してきました。とはいえ親族が亡くなってから、死亡後の手続きに加え、相続、認知症の方の相続に向けた手続きを期間内に行うとなると、非常に負荷となります。必要に迫られて対応するのでなく、被相続人が存命のうちから将来に備えた対策を講じておきましょう。

遺言書を作成してもらう

遺言書



事前対策としては、一般的な方法となりますが“遺言書”が有効です。そもそも遺言書が残されており、遺言書の内容通りに相続するのであれば、遺産分割協議をする必要がないためです。遺産分割協議をしないのであれば、認知症の相続人がいるからといって、相続手続きが進められないという問題は発生しません。例えば、母が認知症なのであれば、父に存命のうちに遺言書を書いてもらいましょう。

このとき、認知症の方にも財産を遺す様子であれば、“遺言執行人”を指定してもらうことをおすすめします。遺言執行者とは、遺言が実行されるよう必要な手続きをする人です。遺言執行者がいれば、その者が認知症の相続人の代わりに手続きを行うことで、認知症の方も遺産を受け取れます。

ただし、認知症の相続人に不動産を遺す場合など、遺言執行人だけでは対応できない手続きもあります。その場合は、上記でご説明した代理人を立てる必要があります。また、遺言書に記載のない財産が見つかると、こちらも遺言執行人の権限では対応できません。これらの理由から、遺言書は有効な手段ではありますが、万全の備えではないといえます。

民事信託(家族信託)契約を結んでおくと安心

親が認知症になってしまわないか心配という状況であれば、民事信託(家族信託)を結んでおくのがおすすめです。民事信託(家族信託)とは、財産を持つ方が信頼できる他者や家族に財産を託し、管理・運用を任せる制度です。

例えば、父・母・子の3人家族において、父が高齢、母が認知症というケースを考えてみましょう。このとき父と子が民事信託を結ぶことで、父が亡くなってしまった場合や認知症になってしまった場合に、子が財産の管理・運用を行えます。契約書に明記しておけば、父の死後、子が母の世話を見るという約束も可能です。また、それらを個人ではなく法人が担うことも可能です。 

民事信託やそのほか相続にまつわる制度について、「より詳しい話が聞きたい」「手続きの相談がしたい」等ございましたら、青山財産ネットワークスにぜひご連絡ください。
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本記事は2023年1月末時点の情報をもとに作成しています。最新情報は財務省HPをご確認ください。

まとめ

認知症の相続人がいる場合、代理人を立てることで遺産分割協議が進められます。また故人の遺した遺言書の内容次第では、代理人を立てずとも認知症の方に財産を引き継ぐことが可能です。とはいえ、必要に迫られてから行動に移すのでは、慌ただしくなってしまい最善の選択ができない恐れがあります。また本記事でも言及したように、被相続人となる方が認知症になるなど、現時点であなたが懸念している以外のリスクも生じる恐れがあります。いずれにせよ、相続対策は早めの行動が重要です。

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青山財産ネットワークスは、総合財産コンサルティング会社として唯一の上場企業です。創立から30年以上に渡り、資産家・企業オーナーの皆様へ、次世代、次々世代を見据えた相続に関するコンサルティングサービスを提供してきました。

税理士、公認会計士、司法書士をはじめとした150名以上の国家資格を有する専門家の知見をもとに、認知症にまつわる相続対策においても、ご一族にとって最適なご提案・実行のご支援をさせていただきます。また、相続した財産の有効活用、遺産分割のトラブルといった相続後の課題や、事業承継などの課題についても包括的にサポートいたします。まずはお気軽に、【無料面談/ご相談】からお問い合わせください。

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監修者

       青山財産ネットワークス
財産コンサルタント 相澤 光
1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP、シニア・プライベートバンカー、公認不動産コンサルティングマスター、宅地建物取引士
  青山財産ネットワークス
財産コンサルタント 相澤 光
-1級ファイナンシャル・プランニング技能士
-CFP
-シニア・プライベートバンカー
-公認不動産コンサルティングマスター
-宅地建物取引士
・経歴
不動産や信託の活用を軸とした永続型の財産承継コンサルティングを現場の最前線で行っている。節税目的の相続対策に警鐘を鳴らし、「財産全体が最適」となる承継・管理・運用を土台とするファミリーコンサルティングを幅広く手掛ける。ナレッジを集約した書籍を発行。セミナー登壇実績多数。YouTubeにて動画コンテンツも配信中。

・著書
青山財産ネットワークスの30年に渡るノウハウをまとめた『「5つの視点」で資産と想いを遺す~人生100年時代の相続対策』を執筆。2021年(11月15日-11月21日)紀伊国屋書店新宿本店 ビジネス書ランキング 第1位

※役職名、内容等は2023年10月時点のものです。


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