2023.11.09
財産承継
被相続人の兄弟は遺留分請求できない?相続人になるケースや知っておくべきことを解説

被相続人の兄弟は遺留分の請求ができるのか、そもそも法定相続人に該当するのかなど、さまざまな疑問を持つ方が多いのではないでしょうか。兄弟は遺留分侵害額請求が基本的にはできません。

本記事では、自身や兄弟の遺産分割に向けて準備を進めている方に向けて、被相続人の兄弟が遺留分請求できない理由や相続人になれるケース、よくあるトラブル、知っておくべきことなどについて詳しく解説します。

遺留分とは


遺留分とは、一定の法定相続人に法律上認められた、最低限取得することができる相続財産の割合のことです。
遺言によって特定の人物に全財産を遺贈等することが定められたとしても、遺留分侵害額請求をすることで一定の割合の財産を相続できます。

ただし、遺留分の取得は自動的に認められるわけではなく、請求することで初めて認められる権利のため、請求するかどうかは本人次第です。
なお、法定相続人になり得る親族の中でも、兄弟には遺留分は認められません。

法定相続分との違い

法定相続分とは、法定相続人に認められる遺産の相続割合のことです。
遺言書で相続分や遺産分割方法が指定されていない場合は、遺産分割協議で相続方法や割合を決める必要があり、その目安となるのが法定相続分です。

ただし、相続人全員の同意が得られれば法定相続分とは異なる割合で分割することも可能です。

遺留分の計算方法

遺留分の割合は原則として各相続人の法定相続分の半分ですが、自分よりも前の世代の血縁者である直系尊属(親や祖父母)のみが相続人の場合は3分の1になります。

例えば、被相続人の配偶者と子ども1人が相続人の場合、配偶者と子どもの法定相続分は2分の1のため、遺留分はその半分の4分の1です。

兄弟に遺留分がない理由

被相続人の兄弟姉妹には遺留分が認められないため、たとえ自分に相続財産の分配がなされなかったとしても、相続を受ける権利を主張することはできません。

兄弟姉妹に遺留分が認められていない理由は次のとおりです。

被相続人との関係が遠い

法定相続人には、以下のとおり相続の優先順位が定められています。

・常に相続人となる……配偶者
・第1順位……子ども
・第2順位……直系尊属(親・祖父母等)
・第3順位……兄弟姉妹

このように、兄弟の相続の優先順位は最も低くなっています。

順位が上となる子ども、直系尊属の全員が亡くなっているないし存在しない場合や、全員が相続放棄をした場合などに限り、兄弟姉妹に相続権が発生することとなっているため、兄弟姉妹に遺留分を認め、相続財産を最低限取得させる必要性が乏しいと考えられています。

相続がなくとも生活に影響がない

被相続人の兄弟は相続財産をあてにしていないことが一般的です。

経済的に独立し、被相続人とは別の生活基盤を有していることから相続がなくとも生活に影響を受けないことが多いため、法定相続人としての優先順位が低くなります。

ただし、何らかの事情で生計を一にしていたり援助を受けていたりするなど、被相続人が亡くなることで生活が困窮する可能性がある場合は、被相続人側が遺言書で兄弟に財産を残したり生前贈与したりといった対策を検討すべきでしょう。 

法律上優先度の低い兄弟が相続を受ける方法


遺留分を請求する権利を持たず、法定相続人としての順位も低い兄弟が被相続人の財産を相続する方法は限られています。
次のいずれかの方法により、被相続人の兄弟が相続を受けることができます。

親族の理解を得たうえで遺言書を作成する

兄弟は相続順位が低いため、遺言書を作成しない場合は財産を相続できない可能性が高いでしょう。そのため、兄弟に相続させたい場合は遺言書でその旨を定めておく必要があります。
遺言書が存在する場合、遺産分割協議を行わずに遺言書の内容に従って相続を行います。兄弟に遺産を相続させる旨を遺言書で定めておくことで、法律上は優先度が低い兄弟も相続が可能になります。

ただし、親族の理解を得ずに遺言書で兄弟に多額の財産を相続させる旨を定めると、後から親族間でトラブルになる恐れがあるため、親族と話し合い、なるべく理解を得たうえで遺言書を作成することが重要です。
例えば、他の法定相続人の遺留分を超える金額を兄弟に相続させる場合、遺留分侵害額請求によって兄弟が十分な金額を相続できなくなる可能性があることにも留意が必要です。

特別寄与料を主張する

被相続人の財産の増加や維持に兄弟が貢献した場合、特別寄与料を主張することで財産の一部を相続できる可能性があります。
以前は相続人でなければ主張できない「寄与分」の制度しかありませんでしたが、法改正によって相続人以外でも以下の条件を満たすことで「特別寄与料」を主張できるようになりました。

・被相続人の親族である
・被相続人に対する療養看護やその他の労務を無償で提供した
・療養看護やその他の労務の提供によって被相続人の財産の増加や維持に寄与した

特別寄与料は、当事者同士の話し合いによって決める必要があります。しかし、お互いが納得できる金額を決めることができない場合は、家庭裁判所が判断します。

兄弟が相続人になるケース


兄弟が相続人になるケースは限定的です。どのような場合に相続人となるのか詳しく解説します。

 

先順位の相続人がいない場合

被相続人に配偶者と兄弟がいるものの、子どもや孫、親、祖父母がいない場合は配偶者と兄弟が法定相続人になります。
この場合、法定相続分は配偶者が4分の3、兄弟が4分の1です。また、兄弟が複数人いるときは、父母双方を同じくする兄弟の場合、4分の1を均等に割ります。

例えば、相続財産が4,000万円で配偶者と兄弟2人がいる場合、配偶者の相続分が3,000万円、兄弟2人は1,000万円を均等にわけて500万円ずつとなります。


被相続人に配偶者と子ども、孫、親、祖父母がおらず兄弟のみの場合は、兄弟だけが法定相続人になります。
この場合、被相続人の全財産を兄弟が取得できますが、上記と同様に兄弟が複数人いる場合は、その人数で均等に割ります。

例えば、兄弟3人で相続財産が3,000万円の場合は、1人につき1,000万円となります。

なお、子どもが亡くなっている場合は、その子どもである被相続人の孫が、亡くなっている親に代わって相続します(代襲相続)。
孫が亡くなっている場合はさらにその子どもが代襲相続するというのが続いていく仕組みです(再代襲相続)。
そのため、被相続人の子どもが亡くなっていたとしても、孫やひ孫がいる場合は、兄弟姉妹に相続権が発生しません。

全員が相続放棄した

被相続人に先順位の子ども、孫、親、祖父母などがいたとしても、全員が相続放棄すれば兄弟に相続権が発生します。
相続放棄すると、最初から相続人ではなかった扱いとなるため、上記に加え配偶者も相続放棄をしていれば、被相続人の全財産を兄弟が相続できます。

ここで注意したいのが、全員が相続放棄するにはそれなりの理由があるということです。
例えば、相続財産の総額を債務が大きく上回っている場合などには、全員が相続放棄することも考えられます。

相続するかどうかは、財産の総額や財産の種類、債務などを踏まえ決めることが重要です。

兄弟が相続するときに知っておきたいこと

兄弟が財産を相続する場合は、相続税の加算や兄弟が亡くなっている場合の相続について確認しておくことが大切です。

兄弟が相続するときに知っておきたいことについて詳しく解説します。

相続税が2割加算される

兄弟が相続する場合、相続税が2割加算されます。相続財産が基礎控除額を超えている場合は、相続税の支払いが発生します。

なお、相続税の計算方法は次のとおりです。

(1)課税財産の総額「相続財産-葬儀費用・債務などの控除額」-基礎控除額「3,000万円+600万円×法定相続人の数」=課税対象となる相続遺産総額
(2)課税遺産総額×各人の法定相続分(兄弟1人の場合は1/4)=各人の課税遺産額
(3)各人の課税遺産額×税率を全法定相続人について合算=相続税の総額
(4)相続税の総額×実際の相続割合±税額控除等=各人の実際の相続税額

例えば、相続税が400万円の場合は、2割加算の480万円の納税が必要になります。

相続する財産の種類、金額などで異なりますが、2割加算の影響で不動産や株券を売却して相続税の納税に充てなければならなくなる可能性があります。

兄弟が亡くなっている場合は甥・姪が代襲相続する

兄弟が亡くなっている場合は、甥・姪が代襲相続します。代襲相続とは、先述のとおり相続人が亡くなった際などに、その子どもが代わって相続人になる制度のことです。

ただし、兄弟姉妹については、再代襲相続は発生しません。つまり、被相続人の甥・姪は代襲相続ができるものの、甥・姪が亡くなっていてもその子どもへの代襲相続はできなくなっています。

なお、兄弟だけではなく、代襲相続した甥・姪も相続税が2割加算されます。

まとめ

兄弟に財産を相続させたい、兄弟が被相続人の財産を相続したい場合は、相続に必要な条件やケースについて確認しておくことが大切です。
遺言書で兄弟へ相続させる旨を記載しても、他の親族から反感を買う可能性があります。

兄弟へ多額の現金や不動産を相続させようとした結果、親族間で争いが生じて関係が悪化する恐れもあるでしょう。
親族の理解を得たうえで遺言書を作成する、特別寄与料を決めるなど、当事者同士で話し合いながら最適な方法を模索することが重要です。

また、被相続人の希望どおりに相続できるよう、専門家の助言を得ながら準備すると良いでしょう。

青山財産ネットワークスの特徴

青山財産ネットワークスでは、税理士、司法書士など、国家資格を有する専門家が150名以上在籍し、30年以上の豊富な実績に基づき、お客様のご希望に沿って相続をはじめとする資産の活用方法をご提案しております。

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監修者

       青山財産ネットワークス
財産コンサルタント 相澤 光
1級ファイナンシャル・プランニング技能士、シニア・プライベートバンカー、公認不動産コンサルティングマスター、宅地建物取引士
  青山財産ネットワークス
財産コンサルタント 相澤 光
-1級ファイナンシャル・プランニング技能士
-シニア・プライベートバンカー
-公認不動産コンサルティングマスター
-宅地建物取引士
・経歴
不動産や信託の活用を軸とした永続型の財産承継コンサルティングを現場の最前線で行っている。節税目的の相続対策に警鐘を鳴らし、「財産全体が最適」となる承継・管理・運用を土台とするファミリーコンサルティングを幅広く手掛ける。ナレッジを集約した書籍を発行。セミナー登壇実績多数。YouTubeにて動画コンテンツも配信中。

・著書
青山財産ネットワークスの30年に渡るノウハウをまとめた『「5つの視点」で資産と想いを遺す~人生100年時代の相続対策』を執筆。2021年(11月15日-11月21日)紀伊国屋書店新宿本店 ビジネス書ランキング 第1位

※役職名、内容等は2023年11月時点のものです。


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