2023.12.12
事業承継
事業を廃業する方法と廃業時にかかる税金、費用について解説
廃業とは、企業経営者や個人事業主が理由や原因を問わず事業をやめることを意味しています。近年では、特に中小企業において経営者の高齢化や後継者不在などが理由で、廃業を決断する事業者が増えている状況です。ただ、実際に廃業する際には費用がかかり、プロセスも複雑です。そこでこの記事では、廃業を検討中の経営者に向けて、法人の廃業の種類や廃業することでかかる税金、廃業手続きの流れなどについて解説していきます。

経営者が事業をやめる方法

会社を経営していたり、個人で店舗などを運営していたりすると、何らかの事情で事業を手放さなければならない場面に直面する可能性があります。事業を手放す方法としては自主廃業での会社の清算、M&Aによる他社への売却と、大きく分けて2つがあります。それでは、自主廃業とM&Aによる売却の違いについて見ていきましょう。

自主廃業

法人の自主廃業は、経営者が自分で事業を終了することであり、手続き上では法務局で登録していた法人登記を抹消することにあたります。会社の財務状況や将来性、経営者の事情などを考慮し、これ以上事業を継続することが困難と判断された場合に、選ばれることが多い手法です。経営状態は必ずしも廃業の理由にはならず、経営者の健康状態の悪化や、後継者の不在といった理由から、たとえ黒字経営でも自主廃業せざるを得ないケースも見られます。

M&Aによる売却

M&Aとは、会社が他の会社や事業を買収する、複数の会社を統合するといった経営手法です。自主廃業では企業そのものは消滅してしまいますが、M&Aでは自社を第三者に売却するため、自社の事業は残ります。そして、その事業に従事していた従業員の雇用も維持されます。また、小規模であっても、独自の技術や特別なサービス・商品を持っているような会社は、高額で売却できる可能性があるでしょう。このようにM&Aは事業を継続したい場合には有効ですが、買い手が現れなければ成立しません。

廃業にかかる主な税金・費用

事業を廃業するためには様々な手続きを踏む必要があり、その中で各種の税金や費用も発生します。費用が多額になる場合、スムーズに廃業できない可能性も生じます。そこでこちらでは、事業の廃業にかかる主な税金や費用について取り上げ、解説していきます。

法人税・地方税

廃業の届け出を提出後、不動産や在庫などの売却により収入が発生することがあります。その場合には、法人税や地方税が課されます。解散の日を決算日として、期首から解散の日までにかかった分を法人税および地方税として支払う仕組みです。その後も残余財産の確定に至るまで、解散日の翌日から1年ごとに清算事業年度の申告を行うことになります。

登録免許税

会社を廃業する場合、登録免許税を支払います。金額は合計4万1,000円で、解散の登記に3万円、清算人及び代表清算人の選任に関する登記に9,000円がかかり、さらに清算結了の登記として2,000円という内訳です。

所得税

債権者に対して借入金など債務の支払いを行った後に残った資産を、残余財産と呼びます。廃業した会社の残余財産を株主に分配する際、出資の払戻し部分を除き、配当所得として所得税が課されます。配当所得の場合は「総合課税方式」が適用され、累進課税によって税率が高くなる可能性があります。

消費税

廃業にあたり会社が保有していた不動産の売却が伴う場合、消費税の支払いが発生するケースがあります。土地の売却については非課税ですが、建物の売却は課税の対象であり、消費税を支払わなければなりません。廃業手続きの中で現預金が不足している中、消費税の納税義務が発生する恐れがあるので注意が必要です。

官報公告費

廃業の事実を債権者に報告するために、官報公告という手続きが必要です。官報の公告は一行につき税込みで3,589円の費用がかかります。廃業の公告の場合は一般的に10行ほどを使うことになるため、官報公告費としてかかる費用は4万円前後です。

専門家への依頼料

会社の廃業手続きには、高度な専門知識が必要です。自分で行うのは現実的ではないため、弁護士や司法書士、税理士などの専門家に手続きを依頼することになります。その場合、自分の負担が無く手続きを進めることが可能ですが、専門家への依頼料が発生します。依頼料は内容により差があるため、事前に相談するのがいいでしょう。

M&Aにかかる主な税金・費用

M&Aによる会社の売却手法は、「株式譲渡」や「事業譲渡」「会社分割」などが代表的です。なかでも株式譲渡が選ばれることが多く、経済産業省の調査によると2022年度に実施されたM&Aのうち73.5%を株式譲渡が占めています。株式譲渡を行った場合、売り手となる個人あるいは法人には、売却で得た譲渡所得に対する所得税または法人税が発生します。ただし、個人株主と法人株主では仕組みが異なります。また、M&Aの仲介やFA(ファイナンシャル・アドバザリー)を専門業者に依頼していた場合、着手金や成功報酬などが手数料として必要になる場合があります。

所得税(個人株主の場合)

廃業する会社の経営者、つまり会社のオーナー個人が売り手としてM&Aによる株式譲渡を行った場合、譲渡所得が発生します。譲渡所得の金額は、上場株式・一般株式ともに「譲渡価額(総収入金額)−必要経費(取得費+委託手数料等)」で計算します。ただし、上場株式等に係る譲渡損失の金額を一般株式等に係る譲渡所得等の金額から控除することも、一般株式等に係る譲渡損失の金額を上場株式等に係る譲渡所得等の金額から控除することも原則できません。こうして算出した譲渡所得に対して20.315%(所得税15%+復興特別所得税0.315%+個人住民税5%)の税率をかけた金額が所得税の額です。

法人税(法人株主の場合)

法人株主とは、法人として企業(株式会社)の株主になっているものを指します。法人株主も、個人株主と同様に株式譲渡により発生した所得に対する税金を支払うことになり、本業の利益と合算した所得金額に対して、約30%の法人税率をかけて計算されます。なお、法人株主は本来の事業の所得が赤字であれば株式譲渡益と損益通算が可能です。

廃業手続きの流れ

会社を廃業するためには、しなくてはならない手続きが多く、手間がかかります。また、手続きの中で債権の回収や資産の売却、債務弁済などお金のやり取りが発生する場合があり、計画的に進めていくことが大切です。こちらでは、廃業するための基本的な手続きについて解説していきます。

廃業に向けた社内での準備

まず、自社の取締役会などで会社を廃業する決定を行い、廃業の予定日を確定させます。また、廃業する旨を自社の従業員や取引先などの関係者に通知・説明し、今後の雇用や取引などについての協議も行います。

株主総会での解散決議と清算人選任

株主総会を開いて、会社解散の決議を行います。この解散決議は特別決議にあたり、「議決権総数の過半数を有する株主の出席」「出席した株主の議決権の2/3以上の賛成」で承認されなければなりません。加えて、会社の清算手続きを行う「清算人」の選任決議も実施しますが、小規模な会社では基本的に代表取締役が専任されます。

法務局への登記

株式総会において会社の解散が決議された日から2週間以内に、法務局に解散登記と清算人選任の登記を行います。

役所への各種届出

解散の登記が済んだら、税務署と都道府県税事務所、市区町村役場に会社の廃業届を提出します。同様に、社会保険事務所とハローワークにも解散の届出を行い、社員を雇用していた場合は労働局や労働基準監督署などに届出を提出します。

財産目録と貸借対照表の作成

清算人は会社が所有している財産を調査し、財産目録を作成する役割を担います。同様に貸借対照表も作成し、財産目録と貸借対照表を株主総会に提出して承認を得ます。これらの書類は、清算決了登記が完了するまで保存しなければなりません。

官報への解散公告

会社が把握していない債権者を保護することを目的に、官報での公告または書面にて解散の事実を通知します。なお、官報への掲載期間は2ヶ月以上と決められています。また清算会社が把握している債権者に対しては、個別に連絡して催告する債権者保護手続きを行います。

解散事業年度・清算事業年度の確定申告

解散の日から2ヶ月以内に、解散事業年度の確定申告を実施します。また、該当する事業年度の清算確定申告を、残余財産が確定した日の翌日から1ヶ月以内に済ませます。

清算手続き

会社の資産の売却による現金化や債権回収、債務弁済など、お金に関する清算の手続きです。全ての債務を弁済した後に資産が残った場合、その資産は「残余財産」として株主に分配されます。株主が経営者1人の場合は、残余財産は全て受け取ることになります。

決算報告書の作成と株主総会での承認

株主に残余財産を分配した後、清算人が決算報告書を作成し、株主総会で清算の決算報告書の承認を受けます。

清算結了の登記

株主総会での承認後、2週間以内に法務局にて清算結了の登記を行います。清算結了登記の終了をもって、株式会社の廃業手続きは完了です。

事業を手放す方法を決めるポイント

自主廃業で会社を清算するのか、あるいはM&Aにより会社を売却するのか。どちらを選ぶにしても、経営者にとってはもちろん、従業員や取引先などの関係者にとっても良い結果になるような判断をしたいものです。では、何を軸に廃業の方法を決めればいいのでしょうか。

得られる手取り額の大きさ

自主廃業の場合、残余財産を売却して得られた所得にかかる税率は最高で55%と、所得によってはかなりの額を税金として納めなくてはなりません。一方で、M&Aにより株式を第三者に譲渡した場合の税率は20.315%で、税率次第では廃業よりもM&Aの方が手取り額がより大きい可能性があります。廃業後の生活にも当然資金が必要ですので、廃業とM&Aでどちらが大きい手取り額が得られるかは判断のポイントの1つになるでしょう。

従業員の雇用

単純に廃業すると会社が消滅するため、従業員は解雇されることになり、仕事を失ってしまいます。しかし、M&Aの場合は会社ごと売却するため、従業員の雇用を維持することが可能です。従業員の雇用を守りたいのであれば、M&Aでの売却がより良い選択になる可能性があります。

事業を承継させたいかどうか

事業を誰かに受け継いでほしい場合は、M&Aによる事業承継という手段があります。一般的に事業が赤字の会社は後継者を見つけること自体が難しく、M&Aも難しいのが現実です一方で、資産価値があまりにも高い場合には、M&Aに非常に多くの資金が必要となるため、買い手もなかなか現れません。そのような場合に有効なのが、縮小型の事業承継ファンドです。縮小型の事業承継ファンドは、縮小型の事業承継ファンドは、一旦会社の株式を引き受けて、不採算事業や赤字店舗の撤退、余剰資産(本社や過剰設備など)の処分などを行って、会社の資産や事業を適切な形に縮小する手法です。買い手の資金的な負担は減るため、M&Aが成立しやすくなります。

まとめ

経営者にとって自分の会社を廃業するという判断は、辛いものかもしれません。しかし、廃業ではなくM&Aによる会社の売却という手段を取れば、会社の事業や従業員の雇用を守ることができ、さらには経営者の手元により多くの資金を残すことができる可能性もあります。何らかの理由で自社の廃業を検討されているのであれば、単に廃業だけではなくM&Aという手法も視野に入れるのはいかがでしょうか。会社・事業の引き受け先探しや、税金の手続きなどについては、事業承継のコンサルティング会社が力になってくれます。また、事業が赤字でなおかつ資産価値が高いためM&Aが難しい場合には、当社の縮小型の事業承継ファンドを活用することも有効です。

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