2024.02.29
財産運用
確定申告に漏れがあるとどうなる?不正があった場合や期限を過ぎた場合の対処法について解説

個人で事業を行なっている場合や、副業で得た所得がある場合は、原則として確定申告が必要です。2023年11月に国税庁が発表したデータによると、富裕層の申告漏れは過去最高の980億円にものぼり、「確定申告の漏れ」が社会的にも注目を浴びています。確定申告に漏れがあった場合、加算税や延滞税などのペナルティが課せられる可能性もあるため、注意しましょう。

本記事では、確定申告に漏れや不正があった場合のペナルティや対処法について解説します。

そもそも確定申告とは?

確定申告とは、1月1日~12月31日の1年間で発生した所得にかかる所得税を精算する手続きのことです。申告期間は翌年の2月16日~3月15日で、確定申告の対象者は原則として期限内に所轄の税務署へ申告・納税を行わなければなりません。

確定申告が必要な理由

日本では申告納税制度に基づき、納税者は自分で納めるべき税金を計算・申告し、納税しなければなりません。そのため、会社で年末調整を受けている人を除き、一定額以上の所得を得ている場合は確定申告が必要です。

また、源泉徴収や予定納税により税金を過分に納めていた場合は、確定申告をすることで払いすぎた税金が還付されます。地方税である住民税も、確定申告の内容をもとに算出されるため、確定申告は国民が納税の義務を果たす上で重要な手続きと言えるでしょう。

確定申告における所得と収入の違い

確定申告では「所得」と「収入」という言葉が使い分けられていますが、2つには次のような違いがあります。

所得(事業所得 収入から事業にかかる仕入や経費を差し引いた額
収入 金銭や経済的価値のある権利・ものの価格の総額


所得から社会保険料や生命保険料などの各種所得控除を差し引いた金額を「課税所得」といい、確定申告ではこの課税所得をもとに所得税の税率が決定されます。

所得税の税率について

所得税には、累進課税制度が採用されており、課税所得に所定の税率をかけて算出します。累進課税制度とは、課税所得に応じて税率が上がる課税方式の一つで、次のように5〜45%の7段階に設定されています。

課税所得の金額 税率 控除額
1,000~1,949,000円 5% 0円
1,950,000~3,299,000円 10% 97,500円
3,300,000~6,949,000円 20% 427,500円
6,950,000~8,999,000円 23% 636,000円
9,000,000~179,99,000円 33% 1,536,000円
18,000,000~39,999,000円 40% 2,796,000円
40,000,000円以上 45% 4,796,000円

税額控除とは

税額控除とは、算出された所得税額から一定金額を差し引く控除のことです。所得控除は所得から控除される一方、税額控除は所得税額から直接差し引きます。税額控除には、住宅ローン控除や配当控除、外国税額控除、住宅借入金等特別控除、寄附金控除などがあります。

年末調整との違い

年末調整では、会社が納税者本人に代わって所得税を精算します。年間の給与が確定した時点で会社が所得税額や各種控除額を計算し、過不足があれば追加徴収または還付される仕組みです。確定申告が「納税者本人が所得税を確定するために行われる」のに対し、年末調整は「会社が所得税の過不足を調整するために行う」点に大きな違いがあると言えるでしょう。

また、年末調整は会社から給与の支払いを受けている人が対象で、個人事業主やフリーランスには適用されません。ただし、会社で年末調整されている場合でも、医療費控除や寄附金控除を利用するには、個人で確定申告が必要です。

確定申告をしなかったり期限に遅れたりするとどうなる?


確定申告の義務を怠ったり期限に遅れたりした場合、無申告者として加算税や延滞税などのペナルティが与えられます。申告時の状況や延滞した期間によってペナルティの内容が異なるため、詳しく確認しましょう。

税務署から調査された場合

確定申告をせず、税務調査により期限後申告・決定があった場合、もともと納めるべき税金とは別に「無申告加算税」が課せられます。無申告加算税とは、法定申告期限内に確定申告をしなかった人に与えられるペナルティで、本来納付すべき税額によって、以下のように税率が異なります。

  • 納付すべき税額が50万円以下の場合は15%
  • 納付すべき税額が50万円~300万円の場合は20%
  • 納付すべき税額が300万円を超える場合は30%

税務調査の通知前に自主的に期限後申告書を提出した場合

法定申告期限を過ぎ、税務調査の通知前に自主的に期限後申告書を提出した場合も、無申告加算税の対象です。ただし、この場合は「期限後申告」と見なされ、税率が5%に軽減されます。

申告期限を過ぎても無申告加算税の対象にならない条件とは?

申告期限を過ぎていても、次の条件をすべて満たす場合は、無申告加算税が課税されません。

  • 法定申告期限を過ぎてから1か月以内に自主的に期限後申告をしていること
  • 期限後申告の申告税額を法定納期限(口座振替納付の場合は期限後申告書を提出した日)までに納付していること
  • 期限後申告をした日の前日から過去5年間、無申告加算税または重加算税を課せられておらず、かつ期限内申告をする意思があったと認められる場合の無申告加算税の不適用を受けていないこと

注意が必要なポイントは、期日内に申告・納税をする意思があったことを認められなければならない点です。意図して納付を遅らせたり違反を繰り返したりする行為は、不適用制度の対象とならないため注意しましょう。

期日を過ぎた場合は延滞税が課せられる

期限後に申告をして納税した場合、税務署から調査を受けたかどうかに関係なく、無申告加算税に加えて「延滞税」が課せられます。延滞税は、法定納期限の翌日から納付するまで日数分が加算されていく仕組みです。

<延滞税の計算方法>
延滞税は、以下の計算式で求められます。

延滞税=本来納めるべき税額×延滞税率×延滞日数÷365日

延滞税率は、納期限の翌日から2か月以内と以降で割合が異なります。具体的な割合は次の通りです。

  • 納期限の翌日から2か月以内の期間:「7.3%」または「延滞税特例基準割合+1%」のうち低い値
  • 納期限の翌日から2か月を超える期間:「14.6%」または「延滞税特例基準割合+7.3%」のうちの低い値

延滞税特例基準割合は毎年更新されており、令和6年1月1日から12月31日までの延滞税率は、納期限の翌日から2か月以内が2.4%、以降は8.7%に決まりました。国税庁の公式サイトでは、延滞税の計算ができるシミュレーションが公開されているため、計算方法に迷った方は活用してみるとよいでしょう。

青色申告者が申告期限を過ぎてしまった場合

青色申告者が申告義務を怠ると、無申告加算税や延滞税の対象となるだけでなく、青色申告ならではの特典を利用できなくなります。

代表例として、最大65万円の控除が受けられる「青色申告特別控除」がありますが、申告期限に遅れると、控除額が10万円に減額されます。場合によっては、所得税の負担が増えたり還付金が受け取れなくなったりすることにもなりかねません。他にも、事業で出た赤字を前年の黒字と相殺できる「繰戻し還付」が受けられないなど、さまざまな不利益が生じる可能性があります。

確定申告で不正をするとどうなる?

申告時に虚偽の報告をするなどの不正をした場合も、ペナルティが与えられます。具体的には、次のようなケースが挙げられるでしょう。

ほ脱をした場合

ほ脱をした場合、無申告加算税の代わりに「重加算税」が課せられます。ほ脱とは、帳簿の改ざんや隠ぺいなどにより、税金の支払いから逃れる行為のことです。重加算税の税率は35~40%と非常に高く、付帯税の中では最も重いペナルティと言えます。

納付できなければ財産が差し押さえられ、極めて悪質なほ脱行為と見なされると、刑事罰の対象になることもあります。ほ脱による刑事罰の最高刑は、10年以下の懲役か1,000万円以下の罰金、または併科で、有罪判決を受けた場合は、社会的信用の失墜にもかかわるでしょう。

無申告や所得隠しをした場合

重加算税が適用されるケースは、無申告や意図的に申告しない「所得隠し」も例外ではありません。所得隠しや無申告は、税務署の調査で発覚することが多く、期限内申告をしても売上金と経費が前年と比べて大きく異なる場合は、黒字・赤字にかかわらず調査される可能性があります。税務調査が入ると、銀行口座の入出金や帳簿書類、請求書、領収書などが調べられ、悪質な場合は、ほ脱と同じように刑事罰を受けることもあります。

確定申告の期限延長申請はできる?

病気やケガによる長期入院、災害などのやむを得ない事情で期日までに申告できない場合は、「災害による申告、納付等の期限延長申請書」を提出することで期限の延長が認められます。延長できる期間は、事情が解消してから2か月以内です。申告ができるようになってから1か月以内に申請書を提出する必要があるため、事情が解消したらすみやかに手続きを行うようにしましょう。

確定申告をするときの注意点

会社員の方でも、以下のケースに該当する場合は注意が必要です。

年内に退職した場合

会社員であれば勤務先の年末調整で控除の手続きが行えますが、年内に退職した場合は自身で確定申告をし、所得税を精算する必要があります。確定申告をすることで払いすぎた税金が還付されるケースもあるため、忘れずに行なっておきましょう。ただし、年内に再就職した場合は、転職先の会社で年末調整が行われるため、確定申告をする必要はありません。

専業主婦(夫)になった場合

年内に退職し、専業主婦(夫)になった場合も同じく年末調整の対象外となるため、確定申告が必要です。また、家族の扶養に入っている場合、納税者が配偶者控除を受けることで、税金が安くなったり還付金が増えたりする可能性もあります。ただし、配偶者控除や医療費控除、寄附金控除は、給与所得のある配偶者名義で行わなければならない点に注意してください。なお、ふるさと納税は納税者と寄附者は同一である必要があります。

確定申告の期限が過ぎてしまった場合はどうすればいい?


確定申告の期限が過ぎてしまった場合でも、申告を忘れていたことに気付いたら、なるべく早く自己申告を行うことが大切です。無申告の状態は、税務調査を受けるリスクがあり、申告が遅れるほどペナルティも重いものになってしまいます。期限を過ぎたとしても、早く申告すれば延滞税の負担が最小限に済み、場合によっては無申告加算税が免除される可能性もあるため、気付いた時点ですぐに対処するようにしましょう。

提出済の確定申告書を修正するには?

提出した確定申告書の内容に誤りや漏れがあった場合、すみやかに修正しなければなりません。確定申告書の修正方法は、期限内か期限後かで異なります。

修正を期限内に行う場合

申告内容の誤りに気付いたのが期限内なら、申告書を作り直してもう一度提出することで解決できます。これを「訂正申告」といい、期限内に出されたもののうち最も新しい日付のものが正式な申告書として扱われることから、訂正した旨を税務署へ伝えなくても問題はありません。また、e-Taxを利用した申請の場合も、新しいデータに上書きされるため、連絡の必要はないでしょう。

修正を期限後に行う場合

申告内容の修正を期限後に行う場合は、税額を実際より少なく申告していた場合と、税額を実際より多く申告した場合によって方法が変わります。それぞれの場合の、申告内容の訂正方法
を確認していきましょう。

<所得税の税額を実際より少なく申告していた場合>
所得税を本来の税額より少なく申告した場合、「修正申告」の手続きが必要です。修正申告書を提出したうえで、差額分を「修正申告書を提出する日」までに納付します。注意点は、不足していた税額に対し、延滞税が発生することです。また、税務署からの調査で過少申告が発覚した場合は、過少申告加算税も課せられます。

<所得税の税額を実際より多く申告した場合>
所得税を本来の税額より多く申告した場合や還付金を少なく申告した場合は、「更正の請求」を行うことで、納めすぎた税金の還付を受けられる可能性があります。更正の請求を行う場合は、原則としてその年の法定申告期限から5年以内に、更正の請求書を税務署に提出する必要があります。過大申告によるペナルティはありません。

個人事業主やフリーランスの人が確定申告をしないとどうなる?

個人事業主やフリーランスとして働いていて、年間所得が基礎控除額の48万円以下の場合、確定申告は不要です。ただし、確定申告をしないことで、次のようなデメリットが発生する可能性もあります。

収入の証明ができない

個人事業主やフリーランスの人は、確定申告書の控えが収入証明書の代わりになるため、申告をしないと行政サービスやローンを利用できない恐れがあります。また、事業所得が赤字または48万円以下の場合、非課税であることの証明になる「非課税証明書」が交付されますが、確定申告をしなければ発行されません。収入証明書や非課税証明書が必要になるケースは以下の通りです。

  • 住宅ローンなどの借入を行うとき
  • アパートやマンションなどの賃貸契約を行うとき
  • 子どもを保育園に預けるとき
  • 児童手当を申請するとき
  • 奨学金を申請するとき

収入証明書や非課税証明書がないと、これらのサービスが利用できないため、自分の状況をよく考えた上で、申告するかどうか判断するようにしましょう。

国民健康保険料の減額を受けられない

個人事業主が確定申告をしないと、国民健康保険料の減免措置を受けられない可能性があります。国民健康保険料の減免措置とは、休廃業や営業不振などで所得が少ない場合に、保険料が減額または免除される制度です。確定申告をしなかった場合、所得が不明となり、減免の判定ができないことから、制度を利用できません。

確定申告が必要なケース

企業や個人事業主ではなくても、以下のケースに該当する場合は確定申告が必要です。ここからは、ケース別の申告方法や注意点を確認しましょう。

給与所得が年間2,000万円を超える場合

会社員でも、給与所得が年間2,000万円を超える場合は、年末調整の対象外となるため、確定申告をする必要があります。その際、配偶者控除や住宅ローン控除は利用できません。

副業の所得が年間20万円を超える場合

会社で年末調整されていても、給与所得とは別に20万円を超える副業による副収入がある人は、確定申告の対象です。また、副業の所得が20万円以下でも、源泉徴収された所得税がある場合は、納めすぎた税金を還付金として受け取れます。

副業で所得を得た場合、所得額にかかわらず住民税は申告が必要なため注意しましょう。

ダブルワークで「給与」を受け取っている場合

本業以外のダブルワークで給与を得ている人も、年間20万円を超えれば確定申告が必要です。ただし、2つ以上の会社から給与を受け取っている場合は、すべての給与所得を合わせて所得税を計算し、申告しなければなりません。

クラウドソーシングや個人での仕事で報酬がある場合

クラウドソーシングや個人で仕事を請けており、所得が年間20万円を超えれば、確定申告をしなければなりません。ここでいう所得とは、売上から経費を差し引いた金額であり、「事業所得」または「雑所得」に扱われます。

ちなみに、副業で得た所得が赤字の場合、事業所得であれば給与所得との損益通算ができます。事業所得として扱うには、一定の所得を継続的かつ、安定して得ていることが目安です。自分の所得がどの種類か迷った場合は、所轄の税務署に相談してみましょう。

一定額の公的年金を受給している場合

公的年金を受給している人のうち、次の条件に当てはまる場合は、確定申告の対象です。

  • 公的年金の年間収入が400万円超
  • 公的年金などの雑所得以外の所得が20万円超

また、上記に該当しない人でも、医療費控除や生命保険料控除などで還付金がある場合は確定申告をしておいたほうがよいでしょう。

株取引で一定の利益がある場合

株取引で20万円超の利益が発生した場合は、株式譲渡益課税制度により確定申告が必要です。ただし、確定申告が必要かどうかは、取引を行なっている口座の種類によって異なります。源泉徴収ありの特定口座であれば、すでに税金を完納しているため、改めて申告する必要はありません。また、NISA口座を利用している場合、120万円までは非課税で投資可能です。

不動産所得がある場合

土地・建物の貸し付けにより、家賃収入などの不動産所得を得ている人は、確定申告が必要になります。不動産所得の計算方法は、次の通りです。

不動産所得=総収入金額-必要経費

上記の計算式で求めた金額が20万円超なら、確定申告を行いましょう。

譲渡所得がある場合

土地・建物・株式などの売却で発生した所得は譲渡所得として、確定申告の対象になります。事業用の資産や山林を売却した場合は、譲渡所得ではなく、事業所得または山林所得、雑所得に分類されます。譲渡所得の計算式は、次の通りです。

譲渡所得=収入金額 - ( 取得費 +譲渡費用) - 特別控除額

他の所得とは、計算方法が多少異なるため注意しましょう。

まとめ

確定申告に漏れがあると、場合によっては重いペナルティや刑罰が科せられることもあります。そうした事態にならないためにも、個人事業主やフリーランスはもちろん、給与所得以外で収入を得た場合は、確定申告の必要がないか確認することが大切です。

監修者

       青山財産ネットワークス
財産コンサルタント 相澤 光
1級ファイナンシャル・プランニング技能士、シニア・プライベートバンカー、公認不動産コンサルティングマスター、宅地建物取引士
  青山財産ネットワークス
財産コンサルタント 相澤 光
-1級ファイナンシャル・プランニング技能士
-シニア・プライベートバンカー
-公認不動産コンサルティングマスター
-宅地建物取引士
・経歴
不動産や信託の活用を軸とした永続型の財産承継コンサルティングを現場の最前線で行っている。節税目的の相続対策に警鐘を鳴らし、「財産全体が最適」となる承継・管理・運用を土台とするファミリーコンサルティングを幅広く手掛ける。ナレッジを集約した書籍を発行。セミナー登壇実績多数。YouTubeにて動画コンテンツも配信中。

・著書
青山財産ネットワークスの30年に渡るノウハウをまとめた『「5つの視点」で資産と想いを遺す~人生100年時代の相続対策』を執筆。2021年(11月15日-11月21日)紀伊国屋書店新宿本店 ビジネス書ランキング 第1位

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